エンターテイメント日誌

2006年07月08日(土) ラセターさん、ありがとう

「ラセターさん、ありがとう」とはスタジオジブリから出ているDVDのタイトルである。「千と千尋の神隠し」北米公開に当たり、ディズニーに掛け合い尽力したピクサーのジョン・ラセター監督と宮崎駿監督との20年にも及ぶ交流の記録である。

さて、久しぶりのラセターの新作「カーズ」について、実は大いなる疑惑がある。当初「カーズ」の公開は2005年の予定であったのだが、それが突如2006年に延期になったのだ。製作が遅れていたわけではない。公開時期が遅れたことについてピクサーからの説明は一切なかった。筆者はこの理由は宮崎さんの「ハウルの動く城」の北米公開が2005年に決まったからだと確診している。「ハウル」の公開アナウンスと前後して「カーズ」の公開延期が発表されているのである。

「ハウル」と「カーズ」が同じ年に公開されれば当然アカデミー賞長編アニメーション部門も、アニメのアカデミー賞と呼ばれるアニー賞も両者が競い合うことになる。そしてもしそうなれば恐らく「カーズ」の方に軍配が上がっただろう。ラセターとしては師として敬っている宮崎さんとこのような場で競いたくない、それが本心だったのではなかろうか。ちなみに「千と千尋」が北米公開された年もピクサーの新作は一本も公開されていない。ラセターとはそういう人なのである。

「カーズ」の最後に”ジョー・ランフトに捧ぐ”とクレジットが出る。ジョー・ランフトとは「トイ・ストーリー」「バグズ・ライフ」「トイ・ストーリー2」などで脚本と声優を兼務した人。それ以外にも「カーズ」のエンド・クレジットでSpecial Thanks to... の後に非常にたくさんの人々の名前が登場する。仲間を大切にするラセター監督の人柄が偲ばれるではないか。

ご存知のとおり今年ディズニーはピクサーを買収したわけだが、これは事実上ピクサーがディズニーを乗っ取ったのである。ピクサーのCEOであり、アップル・コンピューターのCEOでもあるスティーブ・ジョブズがディズニーの取締役に就任。ピクサーのエド・キャットムル社長がディズニー・アニメーション・スタジオの新社長を兼ね、また、ピクサーのエクゼクティブ副社長としてクリエイティブ部門を統括しているジョン・ラセターがチーフ・クリエイティブ・オフィサーとしてディズニー・アニメーションのすべての企画を指導。さらに、ラセターはウォルト・ディズニー・イマジニアリングのクリエイティブ・アドバイザーとしてディズニーランドのテーマパーク設計にも関わることになったのである。これで創造力( creativity )が減退…いや、消滅し、死に体だったディズニーはラセターの指導により奇跡の復活を遂げるであろう。数年前ディズニーは手書きのセル・アニメーションを捨てて今後CGアニメしか製作をしないなどと言う馬鹿げた(いや、狂気の)発表をしたわけだが、その宣言が撤回されるのも時間の問題だ。宮崎アニメを心の底から愛するラセターはセル・アニメーションの良さを十分理解しているのだから。

さて「カーズ」の評価はB-である。そりゃピクサー作品だもん、CGアニメーションのレベルとしては他の追随を許さないワン・アンド・オンリーだし、シナリオの完成度も超一級品である。それだけなら文句なしにAだ。しかし今回は些か退屈した。

「カーズ」は紛れもないバディ・ムービーである。その主題は<友達が一番>、非常にシンプルである。これって結局過去のラセター作品、「トイ・ストーリー」や「バグズ・ライフ」と言っている事は異口同音なんだよね。もう飽きちゃった。歌に乗せて回想シーンが登場する手法も「トイ・ストーリー2」にあったし。出来が良いことを認めるのはやぶさかではないが、目新しいものが何も無かったというのがマイナス要因である。

上映時間が2時間を超えるというのも長すぎないか?「トイ・ストーリー」が81分、「バグズ・ライフ」が94分、「トイ・ストーリー2」が92分。内容は似たり寄ったりなのに30分も長くなっているのである。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]