2005年06月03日(金) |
リドリー・スコットの色彩感覚<キングダム・オブ・ヘブン> |
リドリー・スコットはその監督デビュー作「デュエリスト/決闘者」(1977)の頃からスタイリッシュな映像表現が突出しており、特に青の色彩へのこだわりがあった。北野武の<キタノ・ブルー>に対抗して<スコット・ブルー>と呼称しても差し支えないくらいだ。
最新作「キングダム・オブ・ヘブン」でも、冒頭の真っ青の背景に十字架が浮かび上がる場面から、その映像の魔力に魅了される。<スコット・ブルー>の独壇場である。
それから本作を観て痛切に感じたのは、スコットはとことんリベラルな人なんだなぁということ。例えば「ブラック・ホーク・ダウン」でスコットはアメリカ軍のソマリアでの市街戦を描いているが、アメリカ軍人を主人公に据えながら、そこにはアメリカ軍がソマリアの内戦に軍事介入(お節介)しなければ、こんな事態に陥ることはなかった筈だというイギリス人としての醒めた眼差しが常にあった。「キングダム・オブ・ヘブン」に於いても、十字軍に参加するオーランド・ブルームが主人公ではあるが、スコットが十字軍の正義なんかこれっぽっちも信じていないことは端から明らかである。キリスト教徒はあくまで野蛮人として存在する一方で、イスラム教徒のサラディン王が最も魅力的人物として描かれるのである。中世を舞台としながら、それが現代のイスラエルのユダヤ人VS.パレスチナ人、あるいはブッシュ率いるアメリカ軍VS.イラク民衆という対立をも照射する仕掛けには、ほとほと感心した。
正直言ってこれが映画デビューとなるウィリアム・モナハンの脚本の完成度は高くない。例えば殺人という罪を贖うために十字軍に参加したはずのオーランド・ブルームがエルサレムでも人を殺しまくっているのは明らかに自己矛盾だし、その彼に恋する王女が一体何をしたいんだかさっぱり意味不明である。しかしながらその脚本の不備を補って余りある魅力がこの映画にはあると想う。筆者の評価はBである。
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