リドリー・スコット監督は「エイリアン」「ブレードランナー」「デュエリスト -決闘者-」を代表とする、スタイリッシュで確固たる絵作りで知られている。「ブラック・レイン」はありきたりの刑事物だが、見慣れた筈の大阪の風景がまるで未知のミステリアスな近未来都市のように見えたのはスコットの力量だろう。 「ハンニバル」も街そのものが美術品といえるフィレンツェを舞台に、スコットの美意識が画面の隅々にまで行き渡り、張り詰めたような緊張感が漲っている。光と影、そしてスモークを自在に操る彼のマジックを堪能できるだろう。オペラの場面の挿入も効果的で、荘厳なピカレスク・ロマンに花を添えている。最後、闇に包まれた湖に佇むクラリスを捉えた場面がワーグナーの楽劇「ローエングリーン」を彷彿とさせたのは偶然ではあるまい。ここにルッキノ・ビスコンティ監督の映画(「ルードウィヒ」「ベニスに死す」「地獄に落ちた勇者ども」)に近いものを感じた。
物語そのものは「レクター博士の優雅な生活」と評するのが適当だろう(笑)。知的なゲームを愉しむ感覚か。前作ほどの恐怖は無い。 話題のカニバリズムの場面も、「気持ち悪い」というよりは、むしろ表現が直截的で滑稽というか笑っちゃう。品が無いと言い換えても良いかもしれない。此処がこの作品の評価の分かれ目になるだろう。僕はこれはこれとして優れた映像作品として大いに愉しめたが。少なくともスコットの前作、知性を全く感じさせないマッチョマンの映画「グラディエーター」よりはよっぽど面白かった。
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