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2003年07月24日(木) ■ |
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◆レニングラード国立バレエ『ドン・キホーテ』レドフスカヤ、ルジマトフ、ジュド、シェスタコワ、シヴァコフ、他 |
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キトリ/ドルシネア: ナタリア・レドフスカヤ、 バジル: ファルフ・ルジマトフ、 ドン・キホーテ: シャルル・ジュド、
サンチョ・パンサ: デニス・トルマチョフ、 ガマーシュ: アレクセイ・マラーホフ、 エスパーダ: ミハイル・シヴァコフ、 大道の踊り子: アリョーナ・ヴィヂェニナ、 メルセデス: オリガ・ポリョフコ、 森の女王: オクサーナ・シェスタコワ、 花売り: タチアナ・ミリツェワ&アナスタシア・ロマチェンコワ、 キューピット: タチアナ・クレンコワ、 ファンダンゴ: アンナ・ノヴォショーロワ&ヴィタリー・リャブコフ、 ジプシー: エレーナ・モストヴァヤ&アンドレイ・クリギン、 ヴァリエーション(3幕):スヴェトラーナ・ギリョワ&イリーナ・コシェレワ、
レドフスカヤ=キトリということで、以前観た彼女の素晴らしい公演を思い出し、楽しみ倍増で出かけました。それに、明るくはじけたルジマトフの『ドン・キ』、実は大好きなんです。 レニングラード・ダンサー達も、皆全力で盛り上げてくれましたし、ハッピーな気分になる公演でしたね。 それにしても配役のメンバーは、主役張っているソリスト達が各要所に配されていて、質の高い舞台を提供してくれました。それに、若手が沢山育っていることを今回特に感じましたし、今後もさらに期待できる公演を上演し続けてくれることでしょう。
【プロローグ】 おぉ、いきなりジュド様のドン・キホーテ姿に衝撃を受けてしまいました。 あの老けメークと鬘で、とても先日見た素敵なジュド様とは思えないお姿。なぜこの役を引き受けたのか、正直“謎”な部分もありますが、折角舞台に立ってくださるのですから、ありがたく拝見しましょう。 サンチョ・パンサ役のトルマチョフも小柄でいい味出しています。表情がとても良いし、何だか和む…。そういえば、前回のレニグラ『ドン・キ』もこの役を演じていらっしゃいましたが、今回の方が全幕とおして印象に残りました。
【第1幕】(バルセロナの広場) プロローグの暗い場面から、この第1幕のいきなり明るい町の広場への場面転換は、雰囲気もガラリと変わって、ワクワクしますね。庶民の生活感あふれる港町(後ろに船が停泊している)といった感じの美術で、色々な人々が登場し、元気のいい踊りが展開されてゆきます。 この幕は群舞・音楽とも明るく、舞台に立っている全員が楽しそうに演じていて、観ていて気分が高揚してきます。
さて元気よく登場したキトリ役のレドフスカヤですが、いきなり軽やかなジュテの小気味良い事!! シャキッとしていながら、しっとり感、優美さ、品を兼ね備え、いたずらっぽい表情も出せる、本当に感じの良いキトリ。 踊りもしなやかで、何気なく難しいことをサラッとやってしまう。 それに、例えばジャンプするにしても、回るにしても、さぁ次この動きをするぞという準備や気合が顔に出ることが無く、するすると見事につながった踊りになっています。 上手なダンサーですが、みせびらかしたところがなくて、客が驚く暇も与えない、本当にバレエダンサーとしての美徳を兼ね備えた方だなとつくづく感じます。 特に華やかというわけではないのですが、年々見惚れる踊りと演技を見せてくれて、私もどんどんファンになってしまいました。
それにルジマトフとの相性もとても合っていて、彼女が少しお姉さんっぽい雰囲気でルジマトフをガッチリと受け止められる感じ。 すると、ルジマトフの方もどんどん弾けて、若々しくエンジン全開モードで、観客をグイグイと引き込んでいきます。
ルジマトフですが、今回も魅力がさく裂してましたね。とにかく表情豊かでとってもチャーミング、そして色気のあるバジル。 実は私、彼のこういったメチャメチャ陽性バジルの方が、『ジゼル』のメランコリックなアルブレヒトより好きなんですよね。彼の演じるソロルとかオテロなどの苦悩系ばかり見ていた人は、あまりにも違う演技なのでビックリするのでは…。 1幕の常にテンポの良い踊りは、長年踊り続けて培われたアクセントやステップの妙が、とても素晴らしく、この作品の特徴“色々な踊りの楽しさ”を充分堪能させてくれました。 本人もきっとこの演目は楽しんで踊っているのではないでしょうか。
ガマーシュのマラーホフもいい!! 細くて背の高い方なのですが、毎回素晴らしい演技を見せてくれます。こっけいな役ではあるのですが、やり過ぎでなく人の良さも感じられる愛すべきキャラになっていました。
大道の踊り子を踊ったヴィヂェニナは初めて見ましたが、スタイルがよく容姿も美しい方でした。まだソリストではないようですが、この役を与えられていると言う事は、今後の活躍が期待されているダンサーなのでしょう。 エスパーダのシヴァコフは若さが溢れ、どちらかというと粋とか色気というより、スポーティーな感じかな。踊りはキレがあり、頑張っていて好感が持てそう。最近は草刈民代と組んで踊ることが多いようです。 エスパーダと大道の踊り子の場面はこの演目の醍醐味のひとつ。 ズラリと並んだエスパーダ隊のマント振り回しの壮観なこと!!(一人ふっくら体形だったなぁ) ここのバレエ団ではナイフは突き刺さないで、逆に刃が上になるように柄を下にして置いていました。
フラワーガールのミリツェワとロマチェンコワ。 ミリツェワは大きく迫力ある踊りですが、容姿は妖精のように可愛らしい方で見栄えがすごくいい。先日の『ジゼル』でもペザントを踊っていらっしゃいました。 ロマチェンコワは、主役も踊られるバレエ団期待の若手ソリストですが、キレの良い踊りをされていました。有望なダンサーが隅々まで配されていますね。
【第2幕】
(ジプシー野営地) 日が暮れてキトリとバジルはジプシー達が休んでいる(その辺で寝転んでいる)所にたどり着きます。ドン・キホーテ、サンチョ・パンサも現れ、2人はジプシー達の人形劇を見入ります。 そのうちキホーテは物語中の姫君を助けようと錯乱して暴れだし、劇を台無しにした上、風車を悪者に勘違いし突っ込んでいってしまいます。(キトリとバジルは人形劇の時は、もうはけています)ジュド=ドン・キホーテは風車の羽に摑まりゆらゆら…。
(ドン・キホーテの夢の場面) 頭を打った、ドン・キホーテは、夢の中でドルシネア姫やキューピッド、森の女王に遭遇します。この場面は、今までの原色の世界から淡い柔らかな色調に変わり、踊りも皆ゆったりとして、まさにロマンティックな“夢”の世界です。 コールドの衣装は皆、白が基調でうっすら胴の部分にほんのり緑や紫、青といった色彩が入っていて大変上品なものでした。
森の女王のシェスタコワは、優美で気品に満ちた癖のない踊りで、ジュテも高く、ヴァリアシオンも申し分のない出来でした。彼女はこのバレエ団の中では気に入っているダンサーです。 キューピットのクレンコワは、何と申しましょうか、ちょっと辛かったなぁ。上半身が滑らかでなく頑丈な感じでしたし、キューピット役のイメージには程遠い容姿…。鬘が似合わないのかなぁ…スミマセン。 そして、ドルシネア姫のレドフスカヤは、誰よりも真っ白でシンプルなチュチュ姿。 キトリの時よりも柔らかで、しかも全く音を立てずに優しく静かな表情で踊っていました。
(酒場の場面) こういう雑多な庶民が登場する場面がなぜか好きです。 メルセデス役のポリョフコは濃い髪色といい容姿といい、この役にピッタリ。 それに大きな目から放たれる強い視線と大胆な踊りも、音楽と共にすっかりスペインの世界にいざなってくれます。とても素敵でした。
キトリとバジルの歯切れのいい踊り。ダイブも軽やかにきめ、狂言自殺の場面へ。 毎度お決まりのことながら、ルジがおもむろに剣を自分に刺し、たっぷり溜めてから、マントをサッと敷いて寝転がるところなど、解っていながら客席から笑いが漏れていました。 ルジの表情、コメディっぽくて普段のとの落差もあり、何だかより可笑しい!! あまりにもパッと起き上がるところも。 レドフスカヤも、おきゃんな娘ぶりが良かったです。
【第3幕】(結婚式の場) お待ちかねの結婚式ですが、セットが1幕の背景に提灯の飾りを付けただけというのは、ちょっとなぁ…。盛り上がる場面なのでもう少し工夫した目を見張るような美術にして欲しかったです。だって細かい事ですが、時間経過があるのに全く同じ位置に船があるなんてねぇ。 さて群舞はフラメンコ風衣装、チュチュ隊も同系色で様々な色の衣装でした。 ただ、各色チュチュの女性ダンサーと、グラン・パ・ド・ドゥの合間に踊るソリストの衣装が同じテイストでしたので解りづらい感があります。
まず、ファンダンゴのノヴォショーロワ&リャブコフ。先日『ヌレエフ・フェス』でルディエールが踊ったのを見たばかりでしたので、音楽がまだ耳に残ってました。 こちらは多分、キャラクター専門のダンサーだと思うのですが、この種のベテランのようで年齢が高めに見えました。とても安心して見ていられてプロフェッショナルな印象。
そしてルジマトフ&レドフスカヤのグラン・パ・ド・ドゥ。 ルジマトフは下ろしていた髪の毛をキッチリ結び、レドフスカヤは赤と黒の衣装で登場。 決めるところをキッチリ決める素晴らしい踊りでした。 とにかく良く2人が合っていて、リフトでの難しいポーズのところもピタッと綺麗に止まり鮮やかなこと!! 彼女はバランス・回転系どちらも軸がまっすぐで見事でした。 ルジですが、いつもとソロは振り付けを多少変えたみたいです。凄くキレていた訳ではないと思いますが、それでも独特のアクセントの付け方、フィニッシュのポーズ、粋なラテン系男という感じで情熱的で良かったです。 実際ありがたいですよ。あれだけのものを見せてくれるのですもの…。 レドフは扇を使わないソロヴァリアリオンでした。本当は小道具を使う方が好きですが、シャキシャキ踊っていて気持ちがいいです。
レドフのコーダのフェッテは前半、ダブルが沢山入り後半は両手を腰に留め、しかもスピーディに回ってました。 全幕中危なげなところがなくて、いやホント見事なプリマですね。 コーダの盛り上がりも2人熱を帯びた演技の相乗効果で、会場全体が興奮と歓喜に包まれて素晴らしい舞台を堪能する事が出来ました。
最後におまけとして、ドン・キホーテとサンチョ・パンサが旅立ってから一旦幕が閉まり、再び2人の手により幕が開き、にぎやかな大団円となりました。
『ジゼル』から始まり、『ヌレエフ』『ドン・キ』と一連の今回の公演は大成功だったと思います。ゲストは勿論のこと、レニングラード国立バレエのソリストや、脇も含めたダンサーそれぞれが惜しみなく力を発揮し、成長が目立った公演という印象を残しました。
それと有り難かったのは、ジュドとこのバレエ団、そしてルジマトフとの良い関係です。 何年か前は、想像もつかなかった組み合わせが実現され、さらに今後もきっと素敵な出会いに満ちた公演が実現される事でしょう。 それはファンにとって最も嬉しいプレゼントになるのですから、さらにビックリする感動を生み出して欲しいものです。
そして冬の公演ルジマトフ『ジゼル』の相手役、なにげにルディエールを期待しているのですが…。さてどうなる事でしょう。
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