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2003年07月20日(日)
◆『ヌレエフ・フェスティバル』ジュド、ルジマトフ、ルディエール、イレール、ムッサン、パケット、ペレン、他、


今回のフェスティバルは、“不世出の偉大なる天才舞踊家、ルドルフ・ヌレエフの没後10年を追悼し、彼を敬愛するシャルル・ジュドの呼びかけによって実現したメモリアル公演。
パリ・オペラ座、キーロフ・バレエ、ボルドー・オペラ座、レニングラード国立バレエなどからトップ・ソリストたちが集いヌレエフを偲ぶ“というもの。

私としては、ヌレエフをよく知っている元&現オペラ座エトワール、ジュドやイレール、ルディエール達と、彼の母国ロシア勢との素晴らしい共演が大変楽しみで出かけました。


【第1部】

◆《フィルム上演》
ヌレエフの貴重な映像 (ルネ・シルヴァン監修)
彼の出生のことや、キーロフ時代、亡命劇、ショヴィレやフォンティーンとの共演、映画やメディアとの関わり、振付作品、亡くなるところまでを、短くまとめたフィルムでした。
アメリカの子供向けTV番組に出演した映像はちょっとビックリ。(歌までうたうとは…)

でも彼は若かりし頃から自分のダンスというものを確立していたのが古い映像ながら良く見てとれ、美しい中にも内なる情熱や激しさが伝わってきました。
やはり“踊り”に全てをかけた一生といって過言でない、不世出な人物だと思います。
彼(ヌレエフ)を一度でも生で踊るところを見てみたかったと思いますが、今現在でも、例えば今回参加されたジュド、ルジマトフ、ルディエール、イレールを見ることが出来る私はきっとラッキーなのでしょうね。
彼らもヌレエフに負けない位、他に代わりがいないほどの素晴らしいダンサーですもの…。


◆『海賊』よりグラン・パ・ド・ドゥ、
(デルフィーヌ・ムッサン&イルギス・ガリムーリン)

 『海賊』のグラン・パ・ド・ドゥは、ガラ公演では必ずといっていいほどプログラムに入っていますが、今回は振りも違うし、雰囲気もだいぶ違っていて、面白かったです。
知的で、身体の隅々まで研ぎ澄まされている印象のムッサン、今回は高貴な雰囲気で輝くように美しかったです。
アピールし過ぎといったいやな癖がなく、振付そのものが際だち、ムッサンのポーズの美しさや個性が品良く伝わってきます。
踊りがすっきりとしていて、さりげなく技術の高さを見せてくれまし、まさに大人の『海賊』でしたね。

ロシアやアメリカ以外のダンサーの『海賊』ってあまり見かけませんが、貴重ないいものを観ることが出来ました。 
衣装はベージュゴールドの上下がつながったハーレム風パンツ、ゴールドネットのヘットドレス、チュチュじゃないのも新鮮で素敵じゃないですか! 

ガリムーリンのヴァリアシオンは、元々テクがあるのは知っていますが、鋭さ、キレというより、安定感を感じさせるものでした。コーダはそれよりも鮮やかさを増した印象でしょうか、こちらの方が良かったかな。でも少々は押さえ気味に感じました。

ムッサンのソロは、映像化されたフォンティーン&ヌレエフの『海賊』と同じで、『ドン・キホーテ』の森の女王のヴァリアシオンでした(イタリアンが入るもの)。
コーダが圧巻で、身体の向きを四方向に変える変則フェッテをされていました。(グラチョーワ等もやりますね) 
正直、演目として、ガラの『海賊』は、ちょっと飽きぎみでしたが、今回は魅力に溢れ、とても気に入りました。


 ◆『ファンダンゴ』〜ドン・キホーテ、
(モニク・ルディエール&カール・パケット)

黒に赤のアクセントのあるたっぷりしたドレス姿で登場したルディエール。
ひるがえるドレス、足元はかかと付の靴を履き、ときに激しく、または小刻みにサパテアートを打ちながら、挑むような目つきで静かな情熱を秘めたように踊ります。
すごい!! このようなスパニッシュ・ダンスまで、かっこよく踊れるなんて!! 
パケットとのデュエットは、まるで男と女の戦いのよう…。
二人の交差する真剣な眼差しに観客は引き込まれていきます。
ルディエールの迫力は圧巻、パケットも堂々とした踊りで良かったですね。
赤い背景がよく合っていました。 それに音楽も暫らく耳から離れなくなりました。
次に登場する『ドン・キホーテ』のグラン・パ・ド・ドゥのダンサーが登場するまで、進行の流れがつながるように、ルディエール達は暫らく脇にいて、合図を送っていました。


◆『ドン・キホーテ』よりグラン・パ・ド・ドゥ
(オクサーナ・クチュルク&ロマン・ミハリョフ)

えんじ色に金の衣装で登場の「レニングラード・バレエ」組。
クチュルク、ミハリョフは「モスクワ国際バレエコンクール」で1位、2位を獲得した実力派でバレエ団を代表するソリストです。
何度か踊りを拝見した事がありますが、今回が今までの中で一番良いと思いました。

クチュルクは、何だか一皮向けたような印象。以前は勢いで回ったり、ちょっと雑に見えてしまうところもありましたが、今回は、丁寧でしたし、しっかりと演技の上での踊りを心がけて踊っていたように思います。 
なにしろ踊りが素晴らしかった。バランスも1人で立っていられるほどビクともしないですし、コーダのフェッテは、腰に手を添えたまま危なげなく回りきっていました。

振付もヌレエフ風なのか良くわかりませんが、だいぶ見慣れたものと違っていましたね。例えばアチチュードのところがアラベスクだったり、言い出したらきりが無いほど…。
手のひらを正面に見えるようにつき出して、「ちょっと待った」みたいなポーズ(笑)が沢山使われていました。(これってスペイン風に見えますね)
ミハリョフも高い技術の踊りで、曖昧さが無くノッて演じられたと思います。


◆「シンデレラ」よりパ・ド・ドゥ
(デルフィーヌ・ムッサン&カール・パケット)

ヌレエフ版の『シンデレラ』は1920年代ハリウッドを舞台に、スターに憧れる主人公という設定で創作したオリジナリティ溢れる作品です。
私も映像で(ジュド・ギエム主演)のものを見ましたが、出演者の豪華さに圧倒されますね。(他にも、ヌレエフ、ルディエール、ゲラン等が出演…)

で、この作品の一部分でも、こういった「ガラ公演」で見かけたことが無かったので、今回の上演は、嬉しかったです。(ジュド様のおかげだわ)
くるくる回る椅子を効果的に使い、流れるようなダンスを披露していました。しかし、難しそうな振り付けだなぁ…。 

プロコフィエフの音楽は、心の中の細かい部分まで映し出しているよう。 観ている側は、ただウットリと見つめるのみです。 ムッサンの柔らかい演技と、繊細な生地で作られたドレスの揺らめき…綺麗でした。


◆『ロミオとジュリエット』より寝室のパ・ド・ドゥ
(モニク・ルディエール&ローラン・イレール)
いやぁー 素晴らしかったです。ヌレエフのあの複雑で激しい振り付けを、あそこまで完璧に感情を込めて踊るなんて!! 
正直言って、現オペラ座エトワール達がこれを踊っても、ここまで観客に響いてくるでしょうか? それほど見事な世界を作り上げていましたね。

幕が開くと、舞台中央にベッドが置かれています。そこに横たわるルディエール、後ろのカーテンから登場するイレール。彼は中世風ブラウスが大きくはだけていて、何ともしどけなくてセクシーでした。
二人の感情のほとばしり、すぐ後に来る不幸を予感させるような緊張感のある激しさ。
この逢瀬が最後になってしまうのではと想像してしまうような演技と踊り。
ベッドの上、床、舞台全体を使い、スリリングなリフトもあれば、倒れ込み転げ回るように絡み合う二人。とても息がピッタリでないと踊れないパ・ド・ドゥ。

実際の物語の主人公達は、少年・少女という設定ですけれど、そこまで子供っぽい雰囲気で踊ってはいなかったと思います。ですが、恋する感情に身を任せ、押し寄せる不幸に翻弄される若い二人を、全身で表現し踊っている姿には大変感動しました。

あと、ヌレエフという人は、一時たりとも気が抜けない程、難しい振り付けをするのですね。まさにダンサー泣かせだわ。 
(振付に、もうちょっとゆったりとした部分もあればいいのにとも少し感じました…忙しさの連続なんで…)

ルディエール、イレール、本当に素晴らしかったです。魅せてくださって有難う! 
是非、全幕で観てみたいですが、もう無理ですかねぇ…。


【第2部】

◆『オレオール』
(シャルル・ジュド、ステファニー・ルブロ、
 シルヴィ・タヴァラ、ロール・ラヴィス、リンシンドルジュ)


バロックの巨匠ヘンデル作曲の「コンチェルト・グロッソ」など何曲かを組み合わせ、軽快さと、ソロではゆったりとした伸びやかさを表現した爽やかな演目でした。
やっとジュド様の御登場。アレグロでは中央にルブロを抱きかかえ美しく立ってらっしゃいます。アメリカの振付家ポール・テイラー作と言う事で、明るく元気が出て、観ていて高揚を感じる作品でした。

全員が裸足。ジュドともう一人の男性ダンサー、リンシンドルジュ(東洋的な風貌のかた)は白いタンクトップに白いくるぶしまでのタイツ姿で体操選手を思わせる衣装。女性3人は薄い白の膝丈スカート。
腕を大きく前に振り、飛んで歩くような動きが何度も繰り返され、それがとても印象的でした。ジュドのソロは曲調も変わり、とても美しかったですね。でもまぁ、この演目は深く考えず楽しみました。


◆『アポロ』
(ローラン・イレール、イリーナ・ペレン、
オクサーナ・クチュルク、アンナ・フォーキナ)


バランシンの傑作『アポロ』ですが、このフェスの中で私のツボにピタッとはまった作品(人)です。もう、イレール素晴らしすぎ!! 本当に人を引き付ける凄い魅力を持ったダンサーだと改めてホレなおしました。この作品の面白さを伝える上で、イレールが「アポロ」を踊った事はこの公演が成功する大きな要因だったのではないでしょうか。
多くの場面パーツからなる作品ですので、他の演目に比べて少々長めでしたけれど、アッという間に時間が流れていました。

導入部のイレールがリュートを持ち、ポーズをとっている姿から美しいこと!! 
そして腕を大きく回し、楽器をかき鳴らす動きをしただけでも、もう私の神経は彼以外考えられなくなるほど集中して見入ってしまいました。 
ソロで踊る時などひときわ鮮やかに輝きを増し、目が離せなくなってしまう…。
でも良いダンサーって本当に、その人にだけ強く光が当たっているように見えるのね。

急遽、ヴィシニョーワが出演出来なくなりテレプシコールに抜擢されたペレンですが、何だか今までと全く違って、表現しようとする意欲を見せて踊ってくれました。
元々の類稀な美しい体形(特に脚の形が恵まれていますね。細いのに柔らかそうで、筋肉質もしくは筋っぽくない)を持っていましたが、表情がイマイチで、私的には「どこがプリマなの?」と疑問に思っていたダンサーでしたが、今回は表情、踊りも見違えるくらい良くなってたし、笑顔も観る事が出来ました。(イレールの影響? ジュドの指導?)
でも、最近のペレンは評判も良いし、成長著しいのでしょうね。

先程『ドン・キ』で出演したクチュルクと、以前ルジマトフ来日公演で『オテロ』のデズデーモナを演じたフォーキナも、カリオペ、ポリュヒュムニアを良く踊っていました。


◆『ムーア人のパヴァーヌ』〔オテロのテーマによるヴァリエーション〕
(ファルフ・ルジマトフ、シャルル・ジュド、
エマニュエル・グリゾ、ヴィヴィアナ・フランシオジ)


ホセ・リモン振付、パーセルのバロック音楽を使い、シェークスピアの演劇的な世界を、みごとバレエ作品に作り上げたもの。
人への不信感、ねたみ、真実と嘘、愛、悔恨、これらの人間の心に沸き起こる様々な感情を、よくあれだけ短い作品の中に盛り込んだものだと感心しました。
『オテロ』は以前やはりルジマトフ出演の作品を拝見しましたが、こんなにジュド踊るイアーゴの存在感が突出したものだったかと、改めてビックリ。
(今回と前に見たものはきっと少し違うのだろう)

ジュドのあの粘っこいしつこさ、人を小ばかにしているような表情、「オテロ」のルジに、疑いの心を芽吹かせる悪意に満ちた囁きの場面も、もう凄いの一言!! 圧巻でした。
ルジは苦悩する姿など悪くは無かったと思いますが、感情表現としてイアーゴの方が魅せ方に工夫する余地が大きいような気がしますので、ジュドという素晴らしい演者と一緒に舞台に立つと、食われてしまう感があります。
苦悩、怒り、悔恨のオテロは分が悪いのかな…。
まとめると、ルジも良かったが、ジュドはさらに良かったという感じでしょうか。
女性たちも迫力ある大きな踊りでした。


最後は、舞台にヌレエフの大きな写真が現れ、ダンサー達が讃えるかたちで幕となりました。ジュド演出・企画、素晴らしかったです。また何らかの企画で、やっていただきたい。

あぁ〜 それにしても、ヌレエフ芸術監督時代のパリ・オペラ座って、本当に多くの素晴らしいダンサー(芸術家)を輩出しましたよね。再び、集まってくれないかな? 今度はゲランも揃ったら嬉しいのですが…。