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2003年05月18日(日)
◆《世界B・F全幕特別プロ》東京バレエ団『白鳥の湖』(全4幕) ルテステュ、マルティネス、他


オデット/オディール: アニエス・ルテステュ、
ジークフリート王子: ジョゼ・マルティネス、
ロットバルト: 高岸直樹、
道化: 古川和則、
パ・ド・トロワ: 高村順子、荒井祐子、後藤和雄、
四羽の白鳥:  早川恵子、荒井祐子、太田美和、高村順子、
三羽の白鳥: 遠藤千春、大島由賀子、福井ゆい、
チャルダッシュ: 佐野志織、平野玲、太田美和、
ナポリ: 高村順子、古川和則、
スペイン: 井脇幸江、遠藤千春、後藤晴雄、木村和雄、


〔指揮:ミッシェル・ケヴァル、演奏:東京シティ・フィル〕



新国立バレエ『白鳥〜』を観に行った後、1日あけて、東バの『白鳥の湖』(東京文化会館)という、めまぐるしい鑑賞スケジュールになりましたが、バージョンが大分違っていましたし、雰囲気もかなり異なっていましたので、大変面白く拝見しました。
しかし、同じ日本の有名なバレエ団とはいえ、本当に違うものですね。しみじみ…。

実は、東バの『白鳥』は何年か前に一度観ただけでした。その一度というのが、渋谷区の助成公演(チケ代、半額くらいでした)という事で、珍しく渋谷公会堂で行われたもので、ホールもイマイチの上、あの美術と衣装で、なんだかなぁ…と思ったように記憶しています。
優雅にバレエ鑑賞のつもりが、何となくちょっぴり発表会チックで(ダンサーは別です)チープに見えてしまいました…。
装置も白鳥一直線に飛ぶ所など、シューというヘンな音が聞こえて情けな気分だったような…。でもダンサーには直接関係無かったのですけどね。

それで、今回鑑賞する上で、その時と大分変わっているのではないかと、内心期待しておりました。でもやはり、目にしたのは懐かしいあの時のままでしたけれど、会場もその時と違うし、(東京文化会館は豪華というのではないが好きなので)、なんだか可愛く思えてきました。
でも不思議、人気のある有名バレエ団なのに “あの衣装や美術”を今も使い続けていたなんてねぇ。


【第1幕】(遠くに王宮の見える庭)
《王子の21歳の誕生日を祝う為、領地の若い男女が集まって楽しく踊ったり宴を催しています》

大変シンプルな舞台装置で、人数も舞台上は少ないので、かなり広々見えます。女性のワルツの時の衣装は、イエロー、ライトブルー、ホワイトを組み合わせた色使いで『ジゼル』風デサイン。
あまり見かけない配色で、一度見たら忘れられなくなりそう。
登場するダンサーも先日見た「新国」の人達より、この衣装のせいもあってか、子供っぽいくらいに若々しく見えます。
表情は晴れやかで、可愛らしい人が揃ってますね。

次にパ・ド・トロワ、とても良かったです。高村さん、荒井さん、後藤和雄さん、テクニックも素晴らしいのですが、その観客をのせて引きつける“アピールする力”がすごく際立っていて、さすがという感じでした。
荒井さんの踊り方、ちょっと言い方がヘンですが、このトロワ特有の細かいシャキっとしたリズムの取り方と余裕ある動きが何とも好きです。高村さんの華やかさと後藤さん安定感、それぞれのソロの踊りを観るのは何と楽しいことでしょう。「東バ」のソリストは豪華ですよね。

そして忘れてはならないのは、何とも魅力的な道化役の古川和則さんのパーソナリティと演技力。
もちろんすごいテクニックを見せてくれるのですが、それよりもあの、人なつっこい表情に魅了されます。先日も『眠り〜』でキュートな「長靴を履いた猫」を演じ、そのときもイイなぁと感じましたけれど、今回は出番も多くてスーパーな踊りも堪能でき、私は大満足。
とにかく役も合っていたし、可愛らしい道化でした。

王子のマルティネスは、楽しげに宴に参加というより、いかにも静かな貴族的な佇まいで、周りとは一歩引いていたように感じました。
まぁ祝ってくれてありがたいけれど、心からは楽しんではいないよう。
けして、つまらなそうにしているのではなく、皆が楽しく踊っているのを温かい目で見守っている感じでした。
品が良くて尊敬できる人格者風というのでしょうか、周りが子供っぽい分、彼だけとても大人に見えました。
踊りの中で彼が女性を軽くリフトするところがありましたが、身長差の為か、ちょこっと持ち上げてちょこっと置いていました。
しかしホント身長が高い! 本気で高く持ち上げられたら怖そうだなぁ。

1幕終盤の全員の踊りで、通常目にするゴブレット(杯)やちょうちん?を持って踊ってなかったのがちょっと寂しかったです。小道具を使ってほしい。

【第2幕】(月光の冴える静かな湖のほとり)

ロマンティックな音楽にのせ、マルティネスのソロダンスが挿入されていました。嬉しい!!
大変見応えのある美しい踊りで、長い手足でやるせないような心情を充分物語っていました。
ただ最初のジャンプの着地でかなり大きな音を立てていましたが、その後は気をつけて丁寧に踊っていました。

それと以前見た、白鳥飛来を表すシューシュー音のする装置(一直線に勢いよく飛んでいく装置です。見ないと解らないかも)やっぱり有りました。懐かしいなぁ…(苦笑)

そして白鳥=アニエス・ルテステュの登場です。
やはり何といってもスタイルの良いこと! 彼女の「白鳥」は先日観たレドフスカヤのような心の奥底の繊細な優しさや“情”を感じさせるというより、聡明で品と誇りを持ち、自分に興味を持った王子を(マイムによる表現を使い)、なかなか簡単には受け入れません。
「この人は本当に私を救ってくれる人なの?」と深く考えてから、徐々に踊りのクライマックスに向け、だんだんと心が雪解けしていくような表現でしょうか。とても気高さを感じました。

彼女もオーバーな表現は一切せず、抑制の効いたシンプルな踊りに徹していましたね。
ただ、踊り自体、大変美しいですけれど、柔らかさはそんなに感じられず(メソッドの違いかも)、首、腕の動き、に関しては、先日観たレドフスカヤの方が私は好みでした。
少し、アニエスの方が現代的なのかも知れませんね。
そして大人っぽくて静かで精神的に強い感じに私は見えました。

四羽の白鳥は、早川さん、荒井さん、太田さん、高村さん。
実は今回、コール・ドが気になってしまい、あまり印象に残ってません。
左2人脚が細くて、右2人筋肉が付いていたなぁくらい…。
三羽の白鳥もコール・ドに私の神経が…。
遠藤さん、大島さん、福井さん、上手だったと思います。多分…。

そして問題のコール・ド。統一感があまり見られず、幻想の世界とは程遠かったです。とにかく、靴音がうるさすぎでした。
でも私は靴音について普段あまり気にした事が無かったですし、多少、しょうがないものと思ってましたが、他の踊りに集中できなくなる程、なんだかすごくて、どうしちゃったの???でしたね。
群れをなして勢いよく走って舞台を横切る、その時の音がずっと気になりっぱなしでした。

【第3幕】(王宮の舞踏会)

スペイン以外の民族舞踊はごく普通に招待されたゲストで華やかに順に踊っていきます。
ソリスト達はやっぱりレヴェルが高く、どのような踊りも上手にこなして観ていて楽しいですね。
ただ、やっぱり衣装が子供っぽいくて少し残念。

スペインは悪魔ロットバルト側に設定されてました。
井脇さん、遠藤さん、後藤晴雄さん、木村和雄さんがとっても素敵! とにかくあのリズム感と迫力。
あの音楽も好きだけど、観ていると気分もノッてきます。

民族舞踊の後、オディールのアニエス登場。
やっぱり恵まれた美しいスタイルで本当に綺麗な方ですね。
彼女のメイクは舞台化粧っぽくなく必要最低限くらいにとどめています。
そのような細かいところでも解るように、無理にオディールだから強くとか、すごく自信満々に演じるでもなく、時々こぼれる笑顔やチラッと送る目線によって共演者や観客がオディール像を感じるように作り上げているようです。 そう、あの目線のドキッとする美しさ。
私は白鳥役よりも彼女のオディール像に魅力を感じました。
フェッテは、通常のスピードくらいで、時々ダブルを入れていました。少し前にずれましたが、観客は大変沸いていましたね。

最後にオディールに愛を誓い、騙されたのが解ったジョゼ王子は、今までの優雅な雰囲気から一変、初めて解り易く感情を表し嘆いていました。


【第4幕】(もとの湖のほとり)

白鳥の群舞のあと、ロットバルトが大活躍します。高岸直樹さんがこの役を演じていますが、この東バ版は何と激しく踊ることか。顔が殆ど隠れていて、高岸さんだと意識する事は無かったのですが、よくあの衣装であんなに踊れるのかと感心しますね。
私は疲れていたのか、ロットバルトの凄い踊りと、最後にこの版でも悲劇に終わらず、《永遠に愛を誓いあって、王子とオデットは固く抱き合う》という最後だったなという記憶しか思い出せなくなっています。

たいがい私の場合、古典の「白鳥」4幕目は何か退屈に感じでしまうので、ロットバルトが激しく踊ってくれると本当にありがたい。
それか、グリゴローヴィチ版みたいに(1&2幕)休憩(3&4幕)という風に纏めるか、或いは4幕をもっと盛り上げる演出にするとかしてないと、眠くなってしまうのです。困ったもんだ...。

話がそれましたが、この時の観客は大変な盛り上がりでした。制服を着た学生さんも沢山観に来てましたね。
あの歓声と拍手はダンサー冥利に尽きるのではないでしょうか。
本当にジョゼとアニエスは嬉しそうに笑顔で応えていました。