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2003年05月16日(金)
◆新国立バレエ団『白鳥の湖』レドフスカヤ、マトヴィエンコ、イリイン、吉本泰久、他


オデット/オディール: ナタリア・レドフスカヤ、
ジークフリート王子: デニス・マトヴィエンコ、
ロットバルト: ゲンナーディ・イリイン、
道化: 吉本泰久、
パ・ド・トロワ: 遠藤睦子、西山裕子、トレウバエフ
小さな四羽の白鳥:  遠藤睦子、西山裕子、斉藤希、大和雅美、
大きな四羽の白鳥: 大森結城、前田新奈、湯川麻美子、楠元郁子、

〔指揮:ボリス・グルージン、管弦楽:東京フィル〕


レドフスカヤの「白鳥」という事に惹かれて出かけてしまいました。
会社帰りでしたが、時間前に到着し一安心。
劇場はロビーが広く開放感があるので、飲食するときにも余裕で自分のスペースが取れます。
始まる前、色々とウォッチしていると、平日という事もあってか、ビジネススーツ姿の男性や年齢が高めの落着いた人が多かったです。
若い女性客は他の公演より少ない気がしました。

ここの『白鳥』は本当にオーソドックスなセルゲイエフ版(先日お亡くなりになったドゥジンスカヤが実際に監修)でキーロフバレエで観たものとあまり大差は無いですね。
ただ、衣装や美術をそのまま移したのではなく、バレエ団のオリジナルのようです。
開場記念公演で観た『眠り〜』等はまるごと全部キーロフの美術と同じでしたので…。

【第1幕1場】(城の中庭)
マトヴィエンコが登場すると、一瞬誰だか解らなかったです。
髪の色を脱色したのか、艶の無いスモーキーブロンド?にふわっと盛り上がったオールバックヘア。それに眉毛を殆ど書いていないので眉無しに見え、何か老けた印象。
せめて、艶々のブロンドにするとか、撫で付けたようなオールバックにするか、又は昔のままの方が良かったのに…。
でも演技しだすと、やはり若々しくて前よりはだいぶ逞しく見えました。
ワルツのときも引っ込まないで、脇で家庭教師と演技していたり、王子も途中踊りに組み込まれて楽しげに踊っていました。
そういえばマトヴィエンコさんは、新国立バレエ初の“シーズンゲストダンサー”として契約したとのこと。活躍が楽しみですね。

さてパ・ド・トロワを踊った遠藤睦子さん西山裕子さんは風格があるというか、プロフェッショナルな感じ。とても上手ですが、出来ればフレッシュな若手で観たかったかな。トレウバエフさんはキッチリと素晴らしく踊っていて、観客から盛んに拍手を浴びていました。
風格といえば、このバレエ団全体が、少し年齢が高そうで落ちついで見えるのですが、経験の多い人が多いという事でしょうか。
そして道化役は吉本泰久さんでした。とても活躍する重要な役で、期待通りに奮闘。
小柄な方ですが、滲み出る愛嬌がとてもよかったです。


【第1幕2場】(森の湖畔)
オデット=レドフスカヤの登場。
実にたおやかな白鳥。女っぽさというのでもなく、心の奥底に芯が通っていながら、表に現われるのは孤高というより温かい血の通った白鳥姫。
王子との出会いも恐怖で逃げようとするというより、自然に受け入れていくという印象。
そして、腕と首の動きが大変素晴らしい。人の何倍も関節があるのではないかと思うほど、繊細な動きが本当に見事で、観客はただ、ボゥーと柔らかで豊かな表現力に見入ってしまいます。
この人はいつも思うのですが、過剰にやりすぎる事が無く、精神誠意、真心込めて踊ってくれますので、人の心を打つことが出来るし、見ていて心地良い気分になります。
もうこの場面は、彼女を目で追ってばかりでした。

マトヴィとのパ・ド・ドゥのリフトも凄かったです。軽がる極限まで持ち上げられていました。コンビネーションももっと踊り込めばさらに良かったと思うのですが、少し戸惑うところも見うけられました。

四羽の白鳥の踊りはステップが見事に揃っていて感心しました。コール・ド全体も統率されていて、舞台の美しい照明に映え(照明イイですよ)、美しい世界を作り上げています。この場面本当にきれいでした。


【第2幕】(宮廷の広間)
宮廷ということですが、教会のような雰囲気の背景。
ここで初めて、キーロフ版では見かけない、道化と6人の道化の女達の踊りが挿入されていました。
華やかな幕ですが、各国の踊りで気に入ったのはスペインの踊り。
スピーディーで激しく場を盛り上げていました。湯川さん、楠元さん、市川さん、貝川さん、皆素晴らしかったです。
ハンガリーの踊りに再び、遠藤さんが登場していました。トロワ、4羽の白鳥、ハンガリーと忙しいですね。とても上手なのですが、出来ればもう少し分散して、色々な方のソロパートを見られるようにキャスティングにしてほしかったですね。

さて、黒鳥オディールの登場。私は初めて自信に満ちた笑顔のレドフスカヤを観ました。
以前『ドン・キ』のキトリを踊った時も明るい町娘というより、しっとりとした雰囲気の印象があり、それでも観ている分には、すごく納得のいく役作りだと思った記憶があります。
今回はとても挑発的に華やかな笑顔で、王子を誘惑するのですが、やはり抑制を利かせながらも、踊りとしては緩急を付けてよく踊っています。まぁ「白鳥」の方が似合っているとは思いますが、初めて見る彼女の側面にワクワクしながら鑑賞できました。
フェッテは、音楽がすごく速くて、それでもダブルを入れていたと思います。
マトヴィのソロも安心して観ていられるほど貫禄がついてきましたね。

それとロットバルトのイリインが怖いくらい衣装が似合っていて演技も抜群。いい人が所属してますね。このような人がいると、全体に厚みが出るのではないでしょうか。


【第3幕】(夜の湖畔)
この幕の前の休憩がどうもイヤだ。一気にやってほしいといつも願ってますが、たいがい休憩20分取るようになっている。
さて、ここもキーロフみたいに黒鳥や2羽の白鳥が登場します。まったり音楽の群舞が眠気を誘いそうですが、何とか耐え、オデット、王子、ロットバルトの戦い場面。
演出も凝っていて、打楽器の音に合わせて雷鳴が激しく光り、そのたびにオデットは打撃を受け苦しみます。何度かの雷鳴の後、やっと王子は悪魔ロットバルトの片羽を捥いで、悪魔を倒しハッピーエンドの夜明けを迎えるのでした。


あまり身長は高くないけれど、コール・ドはきれいに揃っていたと思います。照明も微妙な色合いが美しかったです。ソリストは上手かもしれませんが、あまりにも手馴れた感じで、表情もあまり好みではありませんでした。レドフスカヤは素晴らしかった。他の演目も観て見たいです。マトヴィはまず髪型を直してね。踊りは安定して良かったです。

最後に一言。
観客の中に前回来た時もうーんと思う人がいましたが、今回も気になってしまいました。
女性一人に対しても何でもずっと“ヴラヴィー”と叫ぶ人、(それだったらまだ、一般的なヴラヴォーで徹してね)や特定のダンサー意外に一切拍手しない人もいたし、舞台進行中お喋りが止まらない人も…。気が削がれました。勘弁してほしいです…。