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2003年02月21日(金)
◆新国立劇場バレエ『ラ・バヤデール』 ザハロワ、ゼレンスキー、西川貴子、イリイン、他


ニキヤ: スヴェトラーナ・ザハロワ
ソロル: イーゴリー・ゼレンスキー
ガムザッティ: 西川貴子
ハイ・ブラーミン(大僧正): ゲンナーディ・イリイン




新国立劇場バレエを見るのは、昨年の『こうもり』以来。その前は開場記念公演の『眠れる森の美女』ということになるので、考えてみるとあまり見に来ていないことになります。(他公演では来ていましたが、)
いずれもゲスト出演日ばかりなのでちょっと非国民ではありますが、既に沢山の固定のファンが付いているようでしたので、嬉しい気持ちになりました。

今回の全体の印象の良かった点は、やはりゲストが素晴らしかったということと、繊細な舞台美術の色彩が美しかった、会場が広くないので、音響に迫力があった等…。
だだ、スピーディーな展開と、演出上削除された部分を考えると、他の『バヤ』と比べて、薄味地味、物足りなさも感じてしまいます。(音楽もスピーディな展開になるように編集されてるとのこと)
全体に早めた分、最後の「寺院崩壊」場面を長めにやるのかと思ったら、結構一気にやってましたし…。

『ラ・バヤデール』は有名な作品ですが、これまで日本のバレエ団ではあまり無かったものです。そういった作品がこの国立のバレエ団にあるということは、意義深く嬉しく感じます。


さて、感想ですが、1幕1場、インドの寺院の場、寺院のセットは本物のような重厚な石造りの質感のあるもので、とても立派な印象。
苦行僧役男性ダンサーの迫力ある踊り、そして大僧正役のイリインは説得力ある演技で気に入りました。
そして、ニキヤのザハロワが登場すると暗い舞台にあの美しいシルエットくっきりと浮かび上がり、やっぱり美しいとしか言いようがありません。マグダヴェヤにソロルが待っていると告げられたときの輝いた表情、大僧正に対する拒否の表情、どれをとってもニキヤになっていました。
ゼレンスキーの舞台を見るのは久しぶりで、お変わりないかちょっと心配だったのですが(余計なことですが…)、いやぁー何か、若々しく、より引き締まった印象で、すっきりとしてとても美しかったです。相変わらずキレと迫力があり踊りが素晴らしい。
身長が高い2人が踊ると見入ってしまうほど綺麗。

宮殿セットは重苦しくなく、透かした細工が見事な造りでインドの夏の離宮という感じ。
1幕2場ではいよいよ三角関係のお相手、ガムザッティが登場します。
今回は新国のソリスト西川貴子さんがこの重要な役を務められていました。彼女のガムザッティは雰囲気が、金持ちの娘というよりは、どうしてもマダムに見えてしまい、演技もちょっと形式的に見えてしまいました。
踊りのテクニックは遜色ありませんが、ソロルと一緒にいるときの娘らしい恋心を表現してほしかったかな。(ジャンペの踊りを2人で見ているときとかも)
ソロルも何かシラッとしていたような感じがしますし…。
また、佐藤崇有貴さんがラジャー役というのが不思議です。あんなにお若いのにガムザッティの父親というのは、身長もすごく高い訳ではないし、キャラクター専門の熟練した人が努めた方がいいように思うのですが…。

第2幕、婚約式の場は豪華な色合いというより、アジアンな雰囲気の若竹色・濃い桃色を基調としたさわやかで落着いたセンスの良い美術・衣装でした。
どの版でも、ここで色々なディベルティスマンを見せてくれます。壷の踊り、黄金の神像はありましたが、鸚鵡の侍女たちとか、太鼓のインディアンダンスが無いのが残念。個人的に好きなので…。
本編にあまり関係なくても華やかにする要素なので見たかった。
ソロル・ガムザッティのパ・ド・ドゥは2人で踊るときは、合わそうとしてチョット一生懸命っぽく見えましたが、ソロは2人とも立派で迫力ありました。

そしてニキヤ登場。ソロル・ガムザッティは仲良く一緒に座って手など絡めあっていましたが、ソロルは動揺の様子。
ザハロワ(ニキヤ)の悲嘆にくれながら踊る柔らかな長い肢体を見ると、もう日本人では正直、かなわないなと思ってしまう。それほど美しい肩甲骨から滑らかに動く腕、真直ぐで長い足の見事さ。しかも非常に丁寧に踊るのですもの。
花篭を受け取ったときは一変して全身で喜びに満ち軽やかに踊ってました。

最後、蛇に噛まれニキヤが死んでしまったときのソロルの演出は、ニキヤを心配するわけでもなく、一直線に走ってその場を立ち去るというものでした。これってどうなの?
私は違和感を持ちますが、牧氏は現代風の味付けを各場面でしているということですから、無責任ソロルもその一部なのでしょう。

第3幕「影の王国」はコール・ドのダンサーの最大の見せ場です。暗く急な狭い坂をアラベスクを繰り返し、下りてくる様子は圧巻ですね。衣装は基本の白地にしっかりとした模様が入っている凝ったもの。私はもっとシンプルな方が好みですが…。
過酷で集中力を要するこの場面をしっかり踊っていたコール・ドの皆様に拍手です。
暗い背景にザワロワが白いチュチュ姿で登場すると、月光を浴びた水晶のように硬質の輝きを見せます。ゼレンスキーとのゆっくりしたアダージョはポーズからポーズへの移行が滑らかで、派手な動きをする訳ではないですが、見ているものに感動をあたえ、“美しい形”に魅せられてしまいます。もっと見たい! ソロルは本当にニキヤを愛していたというのが伝わる踊りでした。

3幕4場の寺院崩壊は、本当にドサッと建物が崩れるので危険すら感じる演出でした。驚いたー!! 
最後はニキヤに導かれながらも力尽きるというものでした。