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週刊誌や新聞で、『ハゲタカ』ネタを時々みかけます。
先日も地元新聞の記者さんが、「ドラマにもなった小説『ハゲタカ』」
を引き合いに出して、ゴルフ場についてのコラムを書いていました。外
資の功罪が問われる中で、ゴルフ場に関しては外資に買ってもらって自
分達にとってはすごく良くなった、当地のゴルフ場もよろしく、という
ような主旨でした。外資がバブルのお荷物のゴルフ場を山のように買っ
て上手に再生させるテクニック、原作の中では小ネタで登場しますが、
なるほど人に話したくなります。
全六話のTVドラマが終わった後、もう少し金融破綻前後の話が知
りたかったなあ、と思って原作を読む事にしました。
しかし原作とドラマでは登場人物の設定と、ストーリー展開がかなり異
なります。ドラマの、元けなげな銀行員でストイックな印象の、大森南
朋さん演じる鷲津さんがあまりにはまっていたので、原作の、元ジャズ
ピアニストで見かけによらずワイルドな鷲津さんには違和感があるか
も、と思って読み始めたのですが、思いがけないところに関心してしま
うはめになりました。
小説やコミックスを原作として映像化する際、出来るだけ原作に「忠実
に」作るというやり方がありますね。
程度はいろいろですが、なるべく原作のイメージを崩さずに映像を作
り、セリフやストーリーもそのまま再現する。
一方で、原作を土台にして、そのうえで映像化の際に作り手の創造性を
発揮させるやり方があります。
どちらのやり方でも、作り手の力量が足りなかったがために、原作と全
く別ものになってしまう、というのも多々ある事ですが。
『ハゲタカ』TVドラマスタッフのアプローチはかなり意外な形でした。
自動的に話が進展するTVドラマと違って、小説は読者が主体になって読んでくれないと話が進まないので、通常、小説は登場人物の視点で語られます。小説『ハゲタカ』もごく一般的な主人公(複数)視点で、彼らが何を感じて、どういった過程を経て、何をするか、という事が述べられます。原作の鷲津さん視点で言えば、仕事に容赦はないけれど、仲間と雑談したり、食事をしたり、と割合普通の生活をしている場面が多く出て来るので、読者は親近感を持って読み進む訳ですね。
これを、ドラマ版では、全キャラクターの内輪の話とプライベートの部
分を完全カット。特に鷲津さんの場合、原作の「俺」モードを全て無くし、ドラマでは全編「私」のお仕事モード。同じ行動をとったとしても、本人の視点ではなく第三者の視点になるので、印象が全く異なります。
その結果どうなったか、といいますと。
「相手は一体何をする気だ!」と身構える、現実のビジネスの現場に近
い臨場感が生まれました。確かに、現実の世界では、人は目の前にいる人が本当は何を考えているかさっきまで何をしていたのか、などという事を知らないまま外面だけを見せ合いながら対峙している。
何を思っているのか、という内面を現わすのに、言葉に頼らず俳優の演技と演出で見せられるのは、映像作品の特権です。
それにしても不思議な事に、ドラマと小説では設定もストーリーも違うのだから、登場人物達も全然違う人物になりそうなものなのに、全てのキャラクターが、脇役のアランや中延さんに至るまで、本質的には「同じ人」の感じがするのです。ドラマでは存在感の割に出番の少なかった飯島常務なんて、小説ではまさに演じる中尾彬ぴったりの奥座敷のヌシ。なるほど、ドラマでは使わない部分も含めた原作イメージから、全員キャスティングされたんですね。
細部は徹底的に原作にこだわりつつ、小説とは見せ方を変えつつ、しか
もストーリーは日本の再生をイメージしたドラマオリジナル。
公共放送TVドラマスタッフ、良い仕事をしています。
そんな訳で、通常は映像を見てそのイメージに塗りつぶされる前に原作 を先に読んで世界を作っておく派の私ですが、『ハゲタカ』に関してはドラマを先に見てインパクトを受け、著者の膨大な取材の成果である情報量の多い小説を後でゆっくり読む方をおすすめします。小説を読むと一文字違いでモデルが歴然としている金融機関や企業の動向がよく理解できるようになりますし、なんで飯島さんはいつも料亭で仕事しているんだ、とか、鷲津さんだけ毎回無地の白いシャツなのはなぜか、といったドラマの裏設定としても楽しめます。
ただ、エンターテイメントの宿命として、小説もドラマも最後にどんでん返しをもってこないといけない、というのが逆に惜しいように思えます。日に日に変化する社会情勢の中で毎回手がける案件は違ってくるのですから、次々と業務をこなすだけで充分興味深い物語になるのに。
と、思ったら、やっぱり小説の最後は「完」ではなくて「to be continued」。
(ナルシア)
NHK土曜ドラマ『ハゲタカ』 出演:大森南朋
柴田恭兵 松田龍平 栗山千明/六月にBShiで再放送、七月にDVD発売
『ハゲタカ』上・下 『ハゲタカII』上・下(『バイアウト』改
題)著者:真山仁 / 出版社:講談社文庫
2003年05月01日(木) 『アルド・わたしだけのひみつのともだち』
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管理者:お天気猫や
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