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運命を引き合わせたのは、第3代合衆国大統領ジェファーソンだった。 大統領の命じたロッキー山脈を越え、太平洋までの探検旅行が、 インディアンの少女を未知の世界へと連れ出す。
19世紀のはじめ、ロッキー山脈北部で暮らしていたショショーニ族の娘、サカジャウィア。 しかし、平和は長く続かず、サカジャウィアは13歳でミネタリー族にさらわれてしまう。 虐げられてはいなかったが、インディアンの世界には女性が自分の運命を決める権利はなく、サカジャウィアはほどなくフランス人交易商の妻となる。
幼いといっていいサカジャウィアが息子を産んだころ、白人の一行、ルイス大尉とクラーク大尉率いる探検隊が西部への途上でこの地を訪ね、思いもしなかった運命が、長く苦しいながらも喜びを伴う旅が、突然始まる。
クラーク大尉との出会いがすべてを変えてしまった、と自分自身の守護霊に告白するサカジャウィアは、急に大人びたようで、それまでなかったパワーをも感じさせる。少女の運命としてはかなりハードだった経験の数々も、彼女を根本から変えるものではなかったのだ。
サカジャウィアが旅に加わることは、夫のシャルボノーよりもむしろ役に立った。 彼女は部族どうしの勢力図や言葉に通じていて、ガイドとしてもそうだが、母と幼子は部隊の対外的なマスコットとしても欠かせぬ存在だったから。
サカジャウィアのロマンスは、今年公開のハリウッド映画『ニュー・ワールド』のポカホンタスをほうふつとさせる。当時の状況では二人には二重のハードルがあるが、今はそんなものはない。けれど当時は掟があった。容易には変えられない掟が。だから未来を思い煩うよりも、その時、その場で一緒に過ごす体験こそが、いつまでも輝く思い出となるのだと、サカジャウィアは知っていた。ふとした時に感じる相手の優しさが、胸の奥にとどまることを。
赤ん坊のミーコ(その名で呼んでいるのはサカジャウィアだけだったが)を連れての長い旅は楽なわけがない。命の危機もしょっちゅう訪れる。しかし、もし自分が彼女の立場であっても、クラーク大尉の旅に同行することを迷いはしないだろう。
それにしても、個人的なことだが、『コサック軍シベリアをゆく』に続いて、今度は新大陸での遠征旅行である。飢えと寒さ、極限の疲労、襲いかかる敵が、東西を問わず主人公たちを苦しめているのは感慨深い。
旅の途中で暴力を振るう頭の悪い夫(妻は何人もいる)が不慮の事故で…という予想は外れたが、後書きによれば、その後のサカジャウィアの物語も語り伝えられているらしいので、何らかの変化はあったのだろう。せいぜい心中であの夫にふさわしい最期を贈呈しよう。
先住民と移住してきた白人が出会った結果は、歴史が物語っている。けれど、白でも黒でもない薄明の時間と空間で、どんな思い出が共有されたのかを語る歴史は少ない。彼ら自身も多くを語りはしないだろうから。 (マーズ)
『小川は川へ、川は海へ』著者:スコット・オデール / 訳:柳井 薫 / 出版社:小峰書店1997
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管理者:お天気猫や
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