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夢の図書館新館

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-- 2002年07月29日(月) --

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『グリーン・ノウの魔女』(グリーン・ノウ物語5)

ついに第5作目を読む。 うなりながら。 ・・・そうだった。 『グリーン・ノウの煙突』でも、 お腹にこたえて感じたことがあった。

ボストン夫人が描いた古き楽園の家グリーン・ノウには かの善良でユーモラスなオールドノウ夫人という光の存在が 中心に据えられている。

しかし、その光を際立たせる悪もまた、ボストン夫人は知っているのだと。 そのどちらをも存分に活写するペンの力を持ちながら、 悪を描写するときには、多少の手加減を加えていると、 私たちに思わせることが、お腹にこたえてくる。

つまり、描こうと思えばもっともっと描けるのだが、 あえて筆を止める良識。 その背後に隠された、どこにでもありうる、日常的で それだけに残酷な悪意を彼女が知っているという事実が、 影のように私たちをおびえさせるのだ。

今回の事件は、グリーン・ノウ屋敷が、まさに悪しき魔女の 猛烈な襲撃を受けるというもの。 オールドノウ夫人、トーリーとピンの少年二人が一丸となって 屋敷を守り抜くのだが、全編今までになく不穏な空気に包まれている。 英国の闇の伝統ともいえる、古い魔法や魔術の世界が すごみをともなって披露され、魔女メラニーの狂気にも見える 言動のおそろしさは、どこか妖怪譚めいて迫る。

そして、庭園に咲くイングリッシュ・ローズを眺めながら オールドノウ夫人が口に出さずこころのなかにしまっておく バラへの賛辞が、嵐の雲のなかで、宵の明星のように輝いている。

「こんなひと、いるよね。」 などと思ったりもしながら、なかなかこわい。 魔女メラニー・デリア・パワーズは、 得体の知れなさと厚かましさという、私たちの誰もが 経験したことのあるわざわいである。 あなたの隣にも、いつなんどきあらわれるかしれない・・・ 最初はまだ普通の息をしている人物として。 (マーズ)


『グリーン・ノウの魔女』 著者:L・M・ボストン / 訳:亀井俊介 / 出版社:評論社

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