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ちょうど、早春の頃に読んだのに、 ちょうど、風邪をひいていて、熱っぽかったせいか、 何も覚えてなくて、先日、再読した。 唯一、覚えていたのが、 キャロラインの車が雪に突っ込み、遭難してしまうシーンのみ。 いい本なのに、いつも読むタイミングが良くなくて、 今のような蒸し暑い時期よりは、やはり、春先のまだ寒さが残っている頃が、 ちょうどの、季節。 その頃の読書をおすすめします。
結婚式を目前に控えたキャロラインの気持ちは沈んでいる。 キャロラインの結婚、継母夫婦の海外転勤で、幼い弟と別れなければならない。 そんな時、放浪の旅に出ていた兄の居場所が分かり、 弟は、継母夫婦と海外で暮らすことより、兄と生活を共にしたいと言う。 弟のために、ロンドンからスコットランドまで車を走らせるキャロライン。 しかし、目的地にたどり着く前に、雪に阻まれ、 家族を失った悲しみに沈むオリヴァーと出会い、 それぞれの人生が大きく変化していく。
早春のスコットランドが舞台で、冬から春への季節の移り変わりも美しい。 ピルチャーの小説は、それぞれの舞台となっている町や村はもちろん、 降り積もる雪や、草原の緑、海に波立つ泡の描写まで、心惹かれるものがあり いつかは、行ってみたいと、ページをめくりながら、よく思う。 そうは思っても、なかなか旅の予定は立たず、 ピルチャーの世界を舞台にした写真集を眺めることで、 今は満足することにしている。
この本でも冬のスコットランドの降り積もった雪の厳しさから、 すぐそこまで来ている春の気配まで、自然を楽しむこともできるし、 また、ピルチャーの描く、「家」にも心惹かれる。 この物語では冒頭、ヒロインのキャロラインのバスルームが素敵だ。 ピルチャーの本を読んでいると、彼女は、素朴で温かな 昔風の台所が大好きなことがよく分かる。 アーガ・クッカー(ピルチャーの本で覚えた)のおかげで 冬でも暖かで、台所が一家の中心に据えられているような家。 いつも、おいしい匂いと湯気が台所に満ちている。 冒頭に出てくる、そのバスルームは、キャロラインの継母の家で、 とても趣味がよく、そして贅沢にしつらえている。 すごく素敵で、憧れてしまうが、ピルチャーの物語では、珍しい。 私が惹かれるピルチャーの物語の中の素敵な家は、 決して贅沢ではなくて、むしろ、質素。 しかも、随分と古くて、もしかしたらあまり外観は冴えない家かもしれない。 それでも、その家を特別なものにしているものは、 住む人の人柄であったり、そこに住んでいた家族の歴史や 家にそのものに対する惜しみない愛情だ。 ピルチャーの描写からは、「台所」を中心にした、 家族や家そのものの温もりが気持ちよく伝わってくる。 普通の暮らしを愛する素朴な人々の姿が、とても気持ちよい。
『シェル・シーカーズ』以後、ピルチャーの物語には年輪が加わり、 物語も、ずいぶんと長編化してきている。ずっしりとした読み応えもあるが、 読後感はどれも、温かで気持ちがいい。 これは、1972年の作で、あっさりいえば、ロマンス小説。 確かに、一度読み終えた時、「よくできたロマンス小説を読んだ」くらいで、 それ以上の思いはなかったように思う。 けれど、今再読して、細部に目が届くと、 やはり、ここにも確固としたピルチャーの世界があった。 私はスコットランドの風景や、オリヴァーがキャロラインに語った 隠れ家の想像図を頭に描きながら、ピルチャー世界を巡っている。(シィアル)
『スコットランドの早春』著者:ロザムンド・ピルチャー / 訳:中村 妙子 / 出版社:日向房1998
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管理者:お天気猫や
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