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夢の図書館新館

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-- 2003年08月21日(木) --

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『タイタス・アローン』〜ゴーメンガースト三部作(その3)

ゴーメンガースト三部作完結編、となっていますが、 これは「外伝」と呼んでもよいくらい先の二作品とは異なっています。

伝統の重責を逃れて放浪するタイタスは、自分の唯一知る世界とは 全くかけ離れた世界にたどり着きます。 おんぼろ自動車が疾走する、雑然とした石造りの町、 壮麗なビルが立ち並び、上流階級の乗り回す飛行艇が空を埋める街、 地下の貧民都市、非人間的な工場と無気味な近未来的科学力。 描写も、ゴーメンガースト城を描いた緻密な線画のタッチは影をひそめ、 軽いスケッチに淡彩風の、明るく平面的な世界。 前作までの文章の密度と比べると、走り書きのような未完成な印象を受けます。

誰一人ゴーメンガーストを知る者のいない異質な世界で、 第七十七代グローン伯であるという矜持と生命力しか持たぬ青年は、 投げかけられる人々の好意すら束縛に感じ、 自由を渇望し、ひたすら逃走し続けます。 人物描写も底知れぬ城の人々とは異なり、 初対面で敵か見方か直感的に判るシンプルな描き方になっています。 重厚ながら情熱に溢れていた一・二部に比べると、軽快で読み易い反面、 旅の間中、青年の虚ろな痛みにつきあっていかねばなりません。 新しい世界を彷徨い、新しい人々と関わり合いながら、その心の奥で 年若いタイタスがどれほどゴーメンガーストを憎み、慕っていたことか。

長い間病に苦しめられていたピークは、第四部の構想もメモに残して いたのだそうですが、作品化する事は無いまま1968年に亡くなりました。 執筆が続けられていれば、本来ゴーメンガーストシリーズは、 あまりに重い故郷から逃れて迷走する青年が、成長し自己を確立し 旅の果てに帰還する物語となるはずだったのかもしれません。 しかし青年は永遠に旅を続け、城は厳然として重くいずこかの地に 聳え続ける運命となりました。

ところがピークの蒔いた種を秘かに育て、自らの技法によって ピークの描きかけた世界を断片的ながら描き継いだ作家がいるのですね。 ストーリーもキャラクターも全く異なりますが、ピークが世に生み出した 未完の世界の一部は、20年以上後に極東のアニメーション作家が 独自の伸びやかな表現力で蘇らせました。

前述の、タイタスが迷い込んだ都市の説明でお気付きになった方も多いでしょう。 ピークの想像力の衣鉢を継ぐ者。 日本が世界に誇るアニメーションの巨匠、宮崎駿こそその人です。 (ナルシア)


ゴーメンガースト三部作「タイタス・グローン」「ゴーメンガースト」「タイタス・アローン」 著者:マーヴィン・ピーク / 訳:浅羽莢子 / 出版社:創元推理文庫

2002年08月21日(水) 『危険な駆け引き』
2001年08月21日(火) ☆やってみたらできたこと。

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