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第一部タイトル・ロールの第七十七代グローン伯爵タイタスは、 第一部では生まれたばかりの赤子なので、 その存在は城の絶対的伝統の象徴ではありますが、 特に本人が活躍する訳ではありません。 第一部・第二部通しての実質の主人公は、 ゴーメンガーストという巨大な権力を手中に納めるべく、 並外れた知力体力の限りを尽くして暗躍する一人の伶俐な若者。 この英国文学史上有数の天才犯罪者と相対する人々との 密やかにして壮絶な戦いが、第二部の物語となります。
第一部で描かれた城の暮らしを読んでいて気になったのが、 伯爵家の子供達の生活環境でした。 「嵐が丘」を思わせるような他者からの孤絶の中で、まともに育つのか? ところが思いがけず第二部では、小さな伯爵は学寮で 大勢の同級生達とわけへだてなく育てられ、両親との縁は薄くとも 複数の人々に愛されてごく普通の少年に育ちます。 ただ一つ、家名を負い因習にがんじがらめにされる重責を憎む点を除いて。 この重々しくも陽気なパブリック・スクールで暮らす、 重い運命を背負った孤独な少年の姿は、ハリー・ポッターに面影がありますね。
背景が整ったので、第二部は第一部より軽快で、 前半部は主に大人向け(?)コメディ、 後半物語はサスペンスとアクションが急展開で進みます。 天下に一つの見事な画集のようだった第一部とはまた趣が変わり、 緊迫した活劇と想像を超えた舞台装置で幕を閉じる第二部。 世に『ゴーメンガースト三部作』と言われますが、 実質上、ゴーメンガーストの城の物語はこの一部・二部で完結します。 さらば悠久なるゴーメンガースト、さらば緋色の野心、 第三部は城を離れたタイタスが、全く異なった 外の世界を一人旅する物語です。
それにしても文体それ自体が読者を限定してしまい、 その魅力を知る人が少ないのがなんといっても惜しい小説です。 たとえば私達が子供の頃世界文学のダイジェスト版や 大人ミステリの児童向け版を読みふけったように、 読み易いジュヴナイル版を作ってもらえたら 夢中になる子供もさぞかし多い事でしょうに。 というか私が読みたかったですよ。 そして成長して十分な能力を身に付けた時に完全版を読む事を ずっと楽しみにしたでしょう。 連続殺人の話だから駄目? アイリッシュやハメットすら小学校の図書館にありましたし、 残虐性ではシェイクスピア劇も劣りますまい。
なんとかその創造の素晴らしさの一部でも、 多くの人に味わってもらう方法はないものか、と、 私と同じように感じた人がどうやらいたようです。 それも、皆さんが良く御存じの、とても意外な人物が。(ナルシア)
ゴーメンガースト三部作「タイタス・グローン」「ゴーメンガースト」「タイタス・アローン」 著者:マーヴィン・ピーク / 訳:浅羽莢子 / 出版社:創元推理文庫
2002年08月20日(火) 『燃えよ剣』(その2)
2001年08月20日(月) 『さいはての島へ─ゲド戦記(3)』
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管理者:お天気猫や
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