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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2001年08月20日(月) --

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『さいはての島へ─ゲド戦記(3)』

今度の旅は、最後にして全存在を賭ける冒険。 第二話から流れた時間は、ひと息に17、8年。 予想はしていたものの、やはり少し切ない。 こちらの時間では、ほんのさっきまで、 失われた腕輪を手にしたテナー(アルハの真の名)と 一緒に凱旋の旅をしていたゲドなのに。

ローク島の学院で多島海アーキペラゴの 揺るぎなき大賢人となったゲドは、もう初老の姿である。 若かった頃のゲドを知る私たちには、 なんと枯れて映ることだろう。 その彼が魔法世界をおびやかす異変の重大さに気付き、 たったひとりの供を連れ、 どことも知れない、さいはての海域へと旅立つ。 もしも帰れなかったら、世界は文字通り滅びるのだ。

旅をする船は、ゲドの小さな「はてみ丸」。 連れは、エンラッドから来た少年王子、アレン。 彼がこの書の主人公でもある。 不可侵の運命の糸がたぐりよせるように、アレンは時を逃さず ローク島にやってきたのだった。

出会いの場面から、アレンのゲドへの崇拝は 「恋にも似ている」とあるが、その気持はなんとなく理解できる。 ただ一緒にいるだけで、こちらの魂レベルまで上げてしまうような 迷いのない尊厳を感じさせる人物というのは、 この世界にも確かにいるから。

そんな人物、しかも多くを語らない人物との、あてどない旅。 アレンの想いも、旅を進めるにつれ、変化していく。 それは、アレン自身の成長と重なって、 さいごまで恋わずらいのように胸を焦がす。

彼らが訪れた島々で目にするのは、 少しずつあるいは突然に、魔法のことばや技を忘れ、 存在自体が忘れられていく魔法使いやまじない師たち。 商いも作物も、人々の手仕事も狂い始め、 だれもが信じていた平和は遠くへ去り、 世界はどこかに開いた穴から、闇へと崩壊を始めている。

そして、竜たちでさえ。 太古のことばを話し、炎を内に燃やす、 おおいなる存在でさえも おびやかされる日がやってくる。

この書では伝説の竜たちに近く会えるのも楽しみのひとつ。 彼らの生態、というのもおかしいが、 竜とはこんなふうな生きもの、というイメージが これまで以上に固まると思う。

不安と絶望に満ちた旅の途上で、ほとんど見せることのない ゲドの胸中を一瞬だけ読むことができる。 あの第二話から最後の物語へ、 生身の人間としてのゲドがもう一度見たいという私たちの願いは、 かすかな希望の光をあたためるのであった。(マーズ)


『さいはての島へ─ゲド戦記(3)』 著者:アーシュラ・K・ル=グウィン / 訳:清水真砂子 / 出版社:岩波書店※2001年改版

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