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シンプルでセンシティブな絵本。
黒いペンの線だけで描かれた、小さな絵がつづいてゆく。
『めいのサラ・ゴフスタインに』捧げられている。
主人公は、旧約聖書の時代から生きているようなおばあちゃん。
もちろんそんなはずはないのだけど、じゃあ、
宝物にしている「ノアのはこぶね」はどこからきたの?
90年以上も生きているおばあちゃん。
子どものころ、おばあちゃんのお父さんにつくってもらった
おもちゃの「ノアのはこぶね」も、いつのまにか90歳。
お父さんは、とっても楽しみながら、はこぶねをつくった。
そのことを、おばあさんは、ちゃんと知っている。
ちゃんと今でもおぼえている。
はこぶねができてから、
ノアとノアのおくさんができて、
それから、おばあちゃんの成長につれて、一組ずつの動物たちが
プレゼントされていった。
いろんなことがあったおばあちゃんの人生を、ずっと、
そばにいて、みまもってきたはこぶね。
はこぶねをみまもってきた、おばあちゃん。
身近に90歳を見ていると、
人生がおわりにちかづいて身体の機能が失われていくとき、
ほとんどの人は、持ちものを、ベッドと、小さな台がわりの机ひとつ、
一個のいすに集約して暮らさねばならない。
ものを集めていたい人には、これがなかなかできないものだ。
かといって、これだけは手放せないという、他のものとは
とりかえられない『もの』は、何ひとつもっていない。
だれかの写真とか、大事にしていたお守りとか、そういったもの。
もっていない人のほうが、ずっと多数派なのだろう。
病院だって、余分なものをもちこまれるのは嫌う。
特に、衣食住に不必要なものは。
でも、どんなに口うるさい病院でも、
「ノアのはこぶね」のようなものをとりあげることはしないだろう。
おばあちゃんの胸の中の思い出とおなじに、
それは、ふれてはいけない大切なものだし、
ベッドのよこの台の上におかれたはこぶねを見るたびに、
皆が大事なことを思い出すだろうから。
はこぶねをもっていない大多数の人たちにとっても、
形にはのこらなかったけれど、胸のなかに息づいている過去の
すべての思い出があるのだと。
(マーズ)
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