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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2003年06月19日(木) --

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「大きな森の小さな家」

☆茶色い髪と金色の髪、どっちがすてき?

「大草原の小さな家」としてTVドラマ化された
アメリカの開拓者一家の物語、第一作。

この文庫版では、日本人におなじみのガース・ウィリアムズの
挿絵ではなく、アメリカで初版本に入っていたヘレン・シュウエルの
絵が採用されている。
きちんと読むのは実は初めてなので、細かい違いはわからないが、
こちらの絵のほうが、両親(特に父親)の描写がインテリっぽい。
というと語弊もあるけれど、彼らの教育方針ともあいまって、
森のなかで自然あいてに暮らすことを「選択した人たち」
という印象を与える。
子どもたちをしつける言葉や方法も、隣家もない森の中に
住む家族として想像していた以上に理知的だった。
原語では、父さん・母さんという呼び名は、もっと
方言の入ったくだけたものだというが、この家族の暮らし方から
判断すれば、やはり、「父ちゃん」とか、「おっ父」というより、
「父さん」なのではないだろうか。

ここでは森の中に住んでいる5歳の女の子ローラが、
家族の引越していった草原や湖、町での暮らし、
やがて結婚するまでを描いたシリーズは、9巻にのぼる。
書き始めたときローラはすでに64歳、出版は65歳、1932年。
亡くなる90歳まで、冷静に考えれば25年もあるのだが、
25歳からの25年とはちがって、老齢期の執筆を続けられたのは、
ローラその人の生きる力の強さと、あざやかな開拓暮らしの魅力、
そして編集者となった娘の励ましもあったという。

「大きな森」は、北アメリカ・ウィスコンシン州にある。
森にはオオカミや熊、ヤマネコなど、野生動物もたくさん住んでいる。
ローラの家族は、父さん母さん、姉のメアリーと妹のキャリー。
犬のジャックと、猫のブラック・スーザンもいる。

父さんは外へ働きに行くサラリーマンではないから、
現金収入などはない。
あっても物々交換が多いからあまり役には立たないだろう。
冬は森へ猟に行き、春と夏は作物を育て、
衣類や保存食はほとんどすべて自給自足、まさに、
今でいう「スローライフ」である。
ただし、そのために費やす時間と労力は、外でフルタイム働くのと
大差ないようだ。

ローラたちの暮らしのように、すべてをまかなうことは
現在の私たちにはむずかしいことだけれど、
何割かは、こういう方法を復活させていければ、
親子代々うけつぐ生活文化を残せるのだろう。
すべての家が屋根で太陽光発電をするとか、
風力発電を増やすとか、少なくても、電力の供給を
何割かでも自給できて、市民菜園などを増やして、
食べものの自給率を10%でも上げれば、
ただ自虐的でない精神が育つと思う。

子どもたちにとっても、親とのやりとりをする機会が増える。
ローラたちの生活は、季節ごとに計画立てられた、
細やかな家事の記録でもある。
子どもたちも、自分の仕事をもっている。
それらのほとんどは楽しいものとして描かれているが、
その後の家族の団欒なくしてこの物語は成り立たないだろう。
親が喜んで働き、仲良くしていてくれるならば、
子どもにとってそれ以上のご褒美はないではないか。

小さいころから、親のために少しでも何かを手伝う習慣は、
決しておろそかにできないと思う。
それは、親の気まぐれで思い立ったように与えられてもいけない。
まったく何も、親や家族のためになることを受け持っていない子どもは
自分が何の役にも立っていないことを知っている。
逆に、何かひとつでもお手伝いを持っている子は、価値を知っている。
お互いに多少の迷惑を上手にかけあってゆくことは、
人間関係の基本であり、上級の技にも通じるのだから、
おろそかにすべきではない。

本国アメリカにとどまらず、世界中で愛され、古典となった作品にとって、
もちろん、そんな教育的側面は二の次であるが。

おりこうさんで美しい姉のメアリーと自分を比べるローラ。
姉の金髪が、自分のくすんだ茶色より、ずっときれいだと思う。
姉は何でも自分より恵まれていると。
(しかし、ドラマでもおなじみのように、姉はその後失明する。)

物語は主人公ローラの一人称ではないが、語り手はいない。
ローラとメアリー、幼いころの年齢の違いは1年が途方もなく大きい。
メアリーの内面はここには描かれないので、あくまで
すべてはローラ側から見たものである。
姉のメアリーにとってみれば、幼いローラは意地っぱりで欲張りで、
そのくせ甘えるのが上手。
何かというと父さんに贔屓されているように思いもしただろう。
メアリーが髪のことで多少妹をからかったとしても、
メアリーだって、まだまだ子どもなのだ。

子どもが二人の場合は、仲が良いか悪いかだけど、
子どもが三人いると、そこには敵味方だけでなく、
社会が生まれる、と、三人を育てた知人が言う。
二作目以降では、赤ん坊だったキャリーも成長してゆくので、
そこで描かれる人間関係を楽しみにしている。
(マーズ)


「大きな森の小さな家」 著者:ローラ・インガルス・ワイルダー / 絵:ヘレン・シュウエル / 訳:こだまともこ・渡辺南都子 / 出版社:講談社文庫1988

2002年06月19日(水) 『横森式シンプル・シック』
2001年06月19日(火) 『ウィッチ・ベイビ』

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