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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2003年04月09日(水) --

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「妖魔をよぶ街」(その1)

このファンタジーを読もうと思ったのは、
井辻朱美訳だったのと、小さな田舎町が「悪いもの」に
おそわれる話を探していたから。
(そしてそのとき読みかけていたスティーブン・キングの
古典を、まだ読み終わっていない)

イリノイ州ホープウェルは、風光明媚な田舎町。
その町の『公園』と深いかかわりのある
14歳の少女ランナー、ネスト・フリーマーク。
ひそやかな猫の踊りを思わせるシニシッピー公園の名は、
かつてこの地に住んでいたシニシッピー族に由来している。

原題は「ランニング・ウィズ・ザ・デーモン」と
なっていて、少女とデーモンの対決を描いている
のだが、ここには別の意味も隠されている。

公園のあたりを根城にして巣食う『喰らうもの』は、
普通の人間には見えない。彼らは、恐怖や苦しみなど、
負の感情を喰らって増え続ける。
そしてそこに跳梁する「悪いもの」こそ、
人類を滅ぼそうとたくらむのが仕事の『デーモン』。
ネストの世界をいろいろな側面から支えてくれるのは、
それぞれの背景を持った騎士、森の精や家族、級友たち。

ネストには魔力の血統が受け継がれており、
人間でそのことを知るのは祖母だけである。
しかも、彼女は存在理由の情報をほとんど与えられていない。
つぎつぎと彼女の前にあらわれる不思議な人物や
非人物たちによって明かされる秘密、現実、愛と憎しみは、
ネストを痛めつけながらも、成長させる。

皆が少しずつしか教えてくれない真実と自分の直感によって、
ネストは時間のなかを未来に、思いきり息のできる世界に
到達しようとあがく。社会の現実や、見えない世界の闇に
おびえながら。

このファンタジーはシリーズ化されていて、語り部となるのは
もうひとりの主人公、ネストを守る使命を持ったジョン・ロス。
彼が何ものなのか、詳しくは書けないが、どうにも非力に
見えて(笑)、そのおかげで相当はらはらさせられるのも
確かである。しかも、彼の不安が取り越し苦労ではないとくれば。
この不安の一因は、彼がもともと、目的を見つけられずさまよう
タイプのACであった、という事実にあるのかもしれない。

下巻の「訳者あとがき」は、ブルックスの作家論としても
アメリカンファンタジーの論考としても、力作である。
(マーズ)


「妖魔をよぶ街」(上・下) 著者:テリー・ブルックス / 訳:井辻朱美 / 出版社:ハヤカワ文庫FT

2002年04月09日(火) 『妖精国の騎士』(その2)
2001年04月09日(月) 『レベッカへの鍵』

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