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タイトルと作者を見れば、普通ならサブカルチャーのカリスマによる、
若者に人気の「アニメっぽい小説」を書くための指南書だと思うでしょう。
実際そうです。それで合ってます(笑)。
本書はもともとアニメ風イラストを表紙にしたような、ジュニア向けレーベル、
ここでいうところの「キャラクター小説」の書き手を目指す人たちに向けて
書かれた「教科書的解説」が下敷きになっています。
しかし、作者とほぼ同じ世代のマンガ・アニメの「教養」を持つ私としては、
本を見たときピンときてしまいました。
「さては大塚さん、高尚なる日本文学、『私小説』に喧嘩売る気だなっ!」
そしてこの直感もまた当たっていたのですよ(笑)。
その件につきましてはまた後ほど。まずは「教科書」的側面から。
現在はただの大量消費商品でしかない「キャラクター小説」は言わば商業
アニメの代用品です。ならば今や「芸術」の一分野となったアニメと同様、
人を惹き付けるパワーのある文学もここから生まれてくるのではないでしょうか。
もっとも、もと編集者として箸にも棒にもかからない「駄作」を死ぬほど
見てきたであろう大塚氏はすぐにはそんな甘い事は言いません。
しかし、レベルの低い書き手を叩く代わりに、新人発掘のための応募作品に
向けた「編集部」の抽象的な「酷評」を悉く逆批判しながらキャラクター作りの
「問題点」を洗い出していくのが痛快です。
例えば、「オリジナリティが欠けている」として編集部から切って捨てられた
「左右の瞳の色の違う」キャラ(5作に1作の割合で登場!)について。
それはアイディアが駄目なわけではなく、その特異な「外見」を「物語」に
結びつける必要があるのだとして、大塚氏は「左右の瞳の色の違う必然性のある、
魅力的な」キャラをさくさくさくっと作ってみせる。言われてみれば、
最も売れてる大塚キャラだって「左右の瞳の違う」バリエーションですね。
そしてキャラクターはパターンの組み合わせだ、と断じる。
こういうテクニック部分だけでも十分面白く読めます。
実際「創作」の上での「オリジナリティ」なんて、どんな芸術分野でもほとんど
存在していません。皆なにがしかの過去の遺産を引き継いでいるのですから。
意外というか、やっぱりというか、自分達の世代の「サブカル的教養」を
次世代に伝える使命に燃える大塚氏は、いわゆるゲーム小説のここに至る
「歴史」なども成立の事情を知らずに形式だけ真似る書き手のために
懇切に解説しています。つまり。「君ら、『テーブルトークRPG』知らんの?」
熱心な先生らしい修行法の伝授の中で、カルトっぽいTVドラマや人気アニメの
検証とともに、民俗学者が論文を書くために使った「カード」を利用した
編集方法とか、人が「心地よい」と感じる「お話の法則」を知るために民話や
昔話をたくさん読もうとか、「柳田国男の孫弟子」らしいアドバイスも登場
します。
的外れな批判に無自覚な編集部、現実社会の存在に無自覚でいて空想世界を
描く投稿者、商業主義的である事に無自覚な文壇の重鎮、四方八方に怒りを
滲ませ、実際あちこちでもめ事を起こすので有名な真摯な「批評家」は、
そうするうちにもせっせと「証拠」を積み上げてゆきます。
そして。ついに、日本近代文学の始祖の一人とも言える文豪の「無自覚」の
罪を問う!
例によってアクロバティックにして「おお!」と膝を打ってしまうミステリ
的結論!
ワカモノは唖然としたかもしれないけれど、私はまたも大笑い。いやあ。
面白い。
ところで、大塚氏は自ら作り出した「記号的身体」にどうやって「死」を表現
させるのか、「壊れた」事をどうやって読み手に理解させるのか、ものすごく
苦心し試行錯誤されています。そのために自分のルーツとしての手塚治虫の
「血を流す記号的身体」を重く取り扱っています。
しかしながら私は思うのですが、記号的キャラに「死」を与えるのはその
身体表現ではないのではないでしょうか。
大塚氏が「手塚治虫にあって僕にない」という特別な「もの」を持つ天才
表現者の作り出したキャラでいえば、おなかの蓋がぱっくり開くと中の配線が
丸見えで、しょっちゅう首を簡単に取り外すブリキのお人形のようなアトムや、
黒光りする鋼鉄の塊のプルートが、痛むはずのない身体を壊されると、
見ている私達が悲しくなるのは手塚治虫の身体表現の工夫の結果ではないのです。
そのキャラが失われると悲しい。同じ形の身体は別に用意できても、その個体
はかけがえがない。私達は記号の中に「身体」ではなくて「魂」を見ている
からです。
こちらもテクニックを駆使して与える事ができるものですが、身体以上にその
出来不出来にバラツキがあります。
上手に作れると、作った人間よりもはるかに長生きするキャラになりますから、
みなさんがんばりましょう。
(ナルシア)
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管理者:お天気猫や
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