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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2003年02月07日(金) --

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『ロザムンドおばさんの花束』

☆冬の日だまりのような、柔らかで暖かい物語集。

さて、『ロザムンドおばさんのお茶の時間』が 人生の春から夏の物語なら、 『ロザムンドおばさんの花束』は、 すでに人生の秋から冬にさしかかっている。 (※『ロザムンドおばさんの贈り物』が、この短編集シリーズの 最初の一冊で、三冊のうちでは一番有名なはずだが、 残念なことに、近隣の図書館には、なぜだかこの本がなく、未読。) 生き生きとしたみずみずしさよりも、多少の諦念を含み、 静かで落ち着いたほろ苦さが味わえる。 もちろん、若いときのように「より」多くを望みはしないが、 老いても老いたなりの人生への希望はある。 小声でささやくような、静かで密やかとも言える願い。

秋から冬へのもの悲しさを知っているからこそ、 物語はより繊細に描かれている。 秋には秋の、冬には冬の美しさがある。 だからこそ、いくつになっても人生の輝きは失われない。 夏のぎらつく太陽でなくても、 冬の晴れた日の、日だまりの温もりで十分なのかもしれない。

年とともに積み重ねられるもの、心の襞を丹念にたどれば、 無味乾燥な人生などないだろう。 平凡な人生であっても、時に乗り越えがたい悲しみがあり、 かと思えば、ほんの些細なことに人は慰めを見いだし、 人生のほのかな希望の光に出会う。 ピルチャーは、そういう平凡な生活の中の彩りを 温かい眼差しで見つめている。

私が特に好きな物語は、


「人形の家」
(父を亡くした家族思いの少年と隣家に越してきた男性との触れ合い)
「ブラックベリーを摘みに」
(うまくいかない恋に悩む女性と幼なじみの再会)
「息子の結婚」
(息子の結婚を控えた母とその息子の語らい)

どの物語も、深いけれども言葉にしがたい漠とした悲しみが慰められ、 やがて新しい喜びへと変っていく。 「初めての赤いドレス」も、物語が終わった後の、 その後に続くであろう素敵な結末に胸が躍る。

良質な物語を読んだ後の、余韻に浸りつつ、 次は、少しでも長く、ピルチャーの美しい世界を味わいたいと、 図書館から、早速、長編を借りてきました。
(シィアル)

 ※ロザムンド・ピルチャー
1924年、イギリスのコーンウォール州生まれ。
『シェル・シーカーズ』が代表作。
他に、『九月に』『コーンウォールの嵐』『メリーゴーラウンド』
『スコットランドの早春』『夏の終わりに』『野の花のように』など
イングランド・スコットランド・ウェールズを舞台にした長編多数。
多くの作品が各国で翻訳され、世界中でベストセラーを記録している。

「メリーゴーラウンド」(書評:マーズ)


『ロザムンドおばさんの花束』 著者:ロザムンド・ピルチャー / 訳:中村妙子 / 出版社:晶文社

2002年02月07日(木) ☆何となく好きなもの
2001年02月07日(水) 『わたしには向かない職業』

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