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メリングの編む現代のアイルランドを舞台としたケルトの妖精物語の5作目。 →(参)『ドルイドの歌』『歌う石』『妖精王の月』『夏の王』
物語の世界としては、『妖精王の月』『夏の王』『光をはこぶ娘』は、 それぞれ物語がつながり、カナダに舞台を移した次作も控えているらしい。
11歳の少女ダーナは、父親とふたりで暮らしている。
3歳の時に、母親はダーナたちを残し、行方不明になったまま。
ティーンエイジャーとなったダーナにとまどう父は、
アイルランドを離れ、故郷カナダに戻ることを決意する。
アイルランドから、どこかにいるはずの母の存在から、
離れたくないダーナ。
やがて彼女は、妖精界に入ったオナー(参『夏の王』)から、
願い事と引き替えに<上王(ハイ・キング)>から<ルーフ王>への
ことづてを託される。
前作の『夏の王』では、主人公ローレルの旅は、 妖精国とこの世を救うためであるが、 もう一方では、事故死した妹“オナー”への贖罪の旅であった。 その“オナー”から託されたことづてを持って旅立つダーナの旅は、 行方不明の母との再会を願う旅であった。
冒険を通し、真実に出会い、心身共に成長していく少女。 前作と違って、主人公の少女がまだティーンエイジャーの 入口に立ったばかりなので、ロマンスは控えめだが、 困難な悲しみを乗り越えて、少女が真実を見いだし、 やがて運命を受け入れ成長していく姿に心打たれる。
私にとっては、妖精と人間の「ロマンス」が、 このシリーズを読む楽しみの一つであったが、 今回は「ロマンス」が控えめである分、少女の成長が、 −成長にともなう悲しみ、大人になるためのさまざまな「喪失」が− より細やかに描かれている。 物語の少女たちは、大切なものを失う悲しみ・ 苦しみを知ることで、より大切なものを手にしていく。 心を裂かれるような犠牲とともに、自分自身を、自分の生きる 道を見いだすのだ。
さらに、この物語で興味深かったのは、 現実的な環境問題が物語に織り込まれていること。 他の物語と同様、現実の人間界と妖精界は表裏一体の運命共同体。 特に、この物語では、その点がきっぱりと描かれていて、 私たちの抱える環境問題と妖精国の存続の問題は不可分である。 <妖精国>は、夢のおとぎの世界ではなく、現実にあるのだ。
話は飛躍するが、公共広告機構の中四国地方バージョン(2000年頃)に
「妖怪たちが泣いている。」という、水木しげるさんのビジュアルによる
環境保護の広告があった。
自然が消えていけば、そこに住まう妖怪たちも消滅するのだ。
妖精国も、しかり。
森が消えれば、森にまつわる話も消えていく。
古い村や町が消え、すべてが開けて街になって、
人がみな街に住むようになれば、
古い物語の語り部もいなくなってしまうのだ。
私たちは、地球上のすべての生き物とだけでなく、
目に見えぬ古からの住人たちとも、世界を分け合っているのだと、
しみじみと考える。
なんと壮大なEarth Share(アースシェア)なのだろう。
また、この物語に限らないが、
物語を支えるケルト神話のエピソードも見逃せない。
ケルト神話の「蝶になったエーディン」に題材を取っているが、
元の物語と、結末が逆転していたところも興味深かった。
→(参) 『ケルトの神話―女神と英雄と妖精と』著者:井村君江 / ちくま文庫
値段も手頃で、ケルト神話を手軽にひもとくのに、おすすめです。
もちろん、このエピソードに限らず、登場人物の名前も
ケルトの古の物語に拠っている。
たとえば、(蛇足だけれど、)主人公のダーナは、ケルト神話の
ダーナ神族(トゥアハ・デ・ダナーン)の母神ダヌー(ダナー)からだとか。
名前の由来からも、少女ダーナの果たすだろう役割の重大さがよくわかる。
次作は、カナダに舞台を移しての物語になるようで、
新しい展開が楽しみで、とても待ち遠しい。(シィアル)
『光をはこぶ娘』 著者:O・R・メリング / 訳:井辻 朱美 / 出版社:講談社
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管理者:お天気猫や
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