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「声に出して読みたい日本語」が書店に並んだ時、 買いはしなかったものの魅かれるものがありました。 なにかというとシェイクスピアを引用する英国人を スノビッシュだとは思わない。 祖父はよく歌舞伎や講談の一節を口にしていた。 父は気に入りの文章は暗誦しているらしい。 私も口には出さないけれど、生来名調子が好きなのです。
『覗き小平次』は名高い江戸の怪談芝居「小幡小平次」の 京極夏彦版新解釈怪談です。 「四谷怪談」を読み変えた『嗤う伊右衛門』と同じ様に 『巷説百物語』のレギュラー陣が僅かに見隠れしていますが、 今回複雑な仕掛けは特になく、謎にわずらわされない分、 どっぷり様式美に浸った「読んでカッコいい名調子」が満喫できます。
江戸を震撼させた幽霊小平次。 読み本、芝居に度々扱われた有名どころの怪談ながら、 もとの事件はシンプルで、根岸様も『耳嚢』に書きとめています。
旅に出ていた役者が、家に帰って来た。 ただ、その刻限、彼はもう死んでいた。
たったこれだけの事らしい。 たったこれだけの原型と、舞台で生まれた様々の型。 どう捻る京極夏彦。
捻らなかった。 裏返した。
小幡小平次、死んでいるから怖いのではない。 生きているから。
主役を取り巻く登場人物達にも、明確で歪んだ造形が振り当てられています。 ひきこもり。ストーカー。二次元コンプレックス。自己愛。理由なき暴力。 それぞれの抱くそれぞれの世界が無事に擦れ合う訳がない。 関わらなければよいものを。放っておけばよいものを。 生きているからそうもいかぬ。 この世の芝居はそうは終らぬ。
兎にも角にも「文章」で、どれだけ怖い「幽霊の芝居」が現せるものか。 稀代の戯作者京極亭のお手並み拝見。 (ナルシア)
『覗き小平次』 著者:京極夏彦 / 出版社:中央公論新社
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管理者:お天気猫や
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