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夢の図書館新館

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-- 2002年10月25日(金) --

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☆日野啓三氏を悼む

月に一回、読売新聞夕刊に掲載されるエッセイが楽しみでした。
芥川賞作家・日野啓三氏の『流砂の遠近法』。 ここ何年かは月一回のペースが途切れると、 長い闘病生活を続けられている日野氏の具合が また悪くなったのか、と心配になりました。 ふっと紙面に作品が載っているのを見つけると、 お加減が良いようだ、と安心しました。

間遠になっていた連載は、 もう二度と紙面に載る事がありません。

連載エッセイのタイトルは日野氏の作品イメージを 端的に表現していたと思います。 「流砂」。さらさらと流れる細かな砂の大地は 作品中度々現れる日野氏の原風景です。 「遠近法」。現に目の前にある世界の奥に、 重なっている別世界を視る日野氏の視線は、 表面的な現実の上にすっすと直線を引いて 別世界の構造を現していきます。

環状八号線の渋滞の奥に沈む夕陽を見ても、 雨に降り込められた病院の待ち合い室の中からでも、 その一枚下の時空を超えた別世界を幻視する 日野氏の遠近法がとても好きでした。

初めて日野氏の叙情的ながら理性的な文章に接した時、 「このひとは何者かな」とちょっと嬉しくなりました。 湿っぽく濃密な人間の内へ内へと身を沈めていくブンガクとは違って 乾いて空虚な世界の外へ外へ広がる静かな視線。 本の見返しのプロフィールには東大から読売新聞入社とあります。 なるほど、もとはジャーナリスト‥‥と 納得しかけて次の履歴を目にして凍り付きました。 ベトナム特派員。

新聞社を辞して文筆生活に入り、 混沌とした文明社会を透かして遠い大地を視ていた日野氏。 私の目は新聞記事の向うに広がる明るい砂丘を 軽々と歩いている日野氏の姿を視ています。 足跡は流れる砂に飲まれていくけれど、 地平線の彼方の消失点に向かってゆく背中は 遠くなりながらも、まだ消えない。(ナルシア)

2001年10月25日(木) 『あやうし、カミナリ山!』
2000年10月25日(水) 『野草・雑草観察図鑑』

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