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原題は『クリストファー・チャントの命』、 クリストファーとは大魔法使いクレストマンシーの本名だから、 当然この「命」は複数形のLivesとなっている。
そう、クリストファーには、猫のように9つの命がある。 少年時代の大魔法使いがどんな暮らしぶりだったのか、 どんなとんでもないことを考えていたのか、 情報に飢えていたファンへの贈りもののような内容。
だから、やっぱり、時系列では最初でも、書かれた順に、 つまり、大人になったクレストマンシーがどういう人物か、 先に知ったうえで読むほうが楽しいだろう。
彼がどうしてぼうっとしたうわの空の目つきをする クセがあるのか、なぜ銀に弱いのか、 今も回りにいる大事な人にどうやって出会ったのか、 そもそも、クレストマンシーの称号を継ぐことに 怖れや抵抗はなかったのか? そんな疑問がつぎつぎと明かされる。
クリストファーは、夢のなかで「あいだんとこ」と呼ぶ谷間を抜け、 他の世界へ─「どこかな世界」と彼が呼ぶ、12の系列世界へ、 無自覚に魔法の旅をしていたのだった。
この第四話はクリストファーの成長を追うストーリーだが、 なかでも大きな柱は、 魔法使いであるクリストファー少年が異世界を訪ね、 生ける女神アシェスとしてあがめられる少女と出会うという設定。 これは、かの古典ファンタジーの名作、 アーシュラ・K・ル・グウィンの『ゲド戦争記』の第二作 『こわれた腕輪』を連想させるが、 ゲドの魔法世界へのオマージュと取って良いのだろう。 実際、いくつも存在するという世界のなかには、 ゲドの世界、アースシーのように、 たくさんの島だけで成り立つ世界もある、と書かれているし。
本書はクレストマンシーシリーズのなかでも、異世界の描写や 魔法についての詳細さなど、ファンタジーとしての完成度が 最も高い、異色作といって良い。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズは、あとがきで、自分の書く物語の 特徴は、そこに書かれたことが実際に起こってしまうことだと 告白している。彼女や家族にだったり、訳者にだったり。
そういえば、私も白い仔猫を飼っている。 しかも、親を亡くした乳飲み子だったときに拾って。 これもダイアナのいうシンクロなのだろうか。 「何か」は、読者にも起こりうるのだろうか。
ともかくも、クリストファーと同じく、 私も、サーモンサンドイッチは当分食べたくない(苦) でも、クリストファーが「どこかな世界」で 何度か住民たちにもらってうれしそうに飲んでいた、 疲れの取れるあったかいお茶には、とても惹かれている。 (マーズ)
『クリストファーの魔法の旅』 著者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ / 訳:田中薫子 / 出版社:徳間書店
2001年08月09日(木) 『影との戦い─ゲド戦記(1)』
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管理者:お天気猫や
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