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夢の図書館新館

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-- 2002年05月16日(木) --

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『スター☆ガール』から『ザ・ギバー』へ(さまよう連載その1)

☆自由であることについて、あちらこちらへとさまよう思い。

『スター☆ガール』を読み終わったのはずっと前のことで、 読み終わってからもずっと、ひっかかり続けたことがあった。 理由はよくわかっている。 スターガール・キャラウェィの生き方を、 大人として、あるいは、さまざまな分別を求められる社会人の視点で 見つめてしまったからだ。

スターガール・キャラウェィは、何者にもしばられない少女で マイカ・エリア・ハイスクールの1年生。 彼女は自分の生き方、自由であることに忠実で、 付和雷同的な行動はとらない。 ウクレレをランチルームでかき鳴らし歌い、 誰かの誕生日には、その生徒のためにバースディソングを歌う。

スターガールは、その自由で開放的であるがゆえ、 最初は誰の眼にも奇妙に映り、誤解を受け、 なかなか受け入れられないのだが、 やがては、人々はスターガールの不思議な魅力に惹きつけられていく。 しかし、スターガールの精神の自由さ、 心の美しさというのは、 生徒たちの想像を遙かに超える。 たとえば、 チアリーダーになったスターガールは、 自分のチームだけでなく相手のチームまで、 心から応援し、その得点を喜ぶのだ。 生徒たちは、 スターガールを理解できなくなっていき、 心は離れ、反感が募り続ける。 そして、 スターガールへのシャニング(shunning)=無視が、始まり…。

スターガール個人をとらえると、 その生き方には惹かれるし、 自分の理解を超える存在を許容することができず、 自由な個性や精神性無視をして、 人間性を踏みにじる「社会」については、 言いたいことは山のようにある。 あるけれど、社会の中では、 自分の意志に反して、集団に埋没せねばならないことも やはり、山のようにある。 自分のやりたいように、できない、 つまらないと思っても、従わないといけないルールが山とある。 そんな中、自分の信念を貫ける人、 自由であり続けられる人、 そういう少数の人は、とてもまぶしい。 まぶしいが、少数なら許容できても、 誰もが自由であることを優先させようとすれば、 そこには混乱やとまどいが生まれることもあろう。 個性や自由を尊重し、 みんながみんな、スターガールになってしまうと、 とんでもないことになってしまうではないか。 スターガールのような生き方は理想的ではあるが、 そこに住むみんながスターガールであるからといって、 理想的な社会になるいうわけでもないだろう。

そんな風なことをつらつらと考えていたとき、 『ザ・ギバー』を開いた。

少年ジョーナスの暮らすコミュニティにはなにひとつ混乱はなく、 常に整然とした秩序のもとにある。 そこは、それぞれが互いに人間として尊重し合っている、 まさに、理想の社会=ユートピアとして描かれている。 家族、クラスメイト、コミュニティに住む人々は 互いを思いやり、相手を傷つけることを避けている。 口を滑らして相手を非難するようなこともなく、 万が一にも相手の心を傷つけるような可能性のある言動をすれば すぐさまに、謝り、相手もすぐにその謝罪を受け入れるのだ。
「謝罪します」
「謝罪を受け入れます」
という風に。
抑制されている。 成熟した社会というのだろうか。 人々は静かに穏やかにコミュニティに暮らしている。 街であろうが、人の心であろうが、 醜いものはどこにも見あたらない。 善意に満ちあふれた社会。 いや、もしコミュニティの方針に従わない者があれば 「リリース」されるのだから、問題が存在するはずがない。 さらには、人の感情や記憶まで、パーフェクトに管理されている。 やがて、社会全体の記憶を受け継ぐことになったジョーナスは、 社会から個々人の感情にいたるまで、 あらゆることが管理される以前の社会を知ることになる。 今まで覆い隠されてきた、 真の世界を知ってしまったジョーナスは…?

スターガール・キャラウエイのような 強烈な個性の人間はどこにもいない。 混乱とは全く無縁で、みんなが平穏で静かに暮らしている。 とまどいも、ねたみもない、 怒りもなければ、悲しみもない 塵一つ落ちていない美しい社会。 まさに、スターガールとは、対局の生き方を求められるのだ。 いや、誰も、スターガールのような生き方を求めようとしない。 そもそも、そういう生き方を知らないのだ。

社会全体の幸せと、個人の幸せ。 どちらが優先されるのか。 どちらが勝るというものでもなく、 互いに補完し合うものであるし、 要はバランスの問題で、 いずれにせよ「過ぎたるは及ばざるがごとし」 ということだろうか。 考えてもどうなるものでもない、 ある意味では哲学的、ある面では政治的なことに 思いを巡らしていた。

頭の中で、あれこれと考えを弄ぶだけなら、 「要はバランスの問題」なんだと、 こういう、個人的結論でいいのだけれど。 しかし、それも「約束された場所で」を読み終えると、 また、大きく、考えが揺さぶられ、 さらに深く考え込んでしまった。(シィアル)

(その2)『「ザ・ギバー』から「約束された場所で」へ に続く。


『スター☆ガール』 著者:ジェリー・スピネッリ / 訳:千葉茂樹 / 出版社:理論社

『ザ・ギバー 記憶を伝える者』 著者:ロイス・ローリー / 訳:掛川恭子 / 出版社:講談社

2001年05月16日(水) SARAH MOON

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