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17歳の少女、ゾーイは、最愛の母の死を目前にしている。 永遠の別れがそこまできているのだ。 いまや、父は母の看病と自分自身の悲しみだけで精一杯で、 ゾーイの悲しみ、苦しみには無頓着だ。 すぐ傍らにいる父とすら、 このまま、心は隔たっていき、いらだっていく。 二度ともう、父と寄り添うことはないのかもしれない。 さらに、親友のロレインも遠い町に引っ越していく。 誰にも、心の内を語ることはできない。 悲しみを分かち合うすべがない。 ゾーイは、あらゆる形の別れを前にして、 悲嘆し、それが怒りに変わろうとしている。
そこかしこに、 暗くやりきれない、死の影が見え隠れしている。
唯一、ゾーイの悲しみに触れることができたのが、 吸血鬼のサイモンだった。 そして、サイモンの心に、その深い悲しみに はじめて触れたのも、ゾーイ。 死を恐れる少女と、 決して死ぬことのできない、少年。 そっと寄り添う、孤独な魂。
吸血鬼の物語としての、 定石もちゃんと踏まえているが、 単に、吸血鬼ストーリーというよりは、 私にとっては、 シリアスな、死についての物語であった。
言葉の一言一言、 シーンの一つ一つから、 「悲しみの質感」を感じる。
夜、外で、どこかの家の暖炉が気持ちよく燃えているにおいがすると、ゾーイはいつもなんとなくさびしくなった。(P60)
『線を踏むと、母さんの背骨が折れる』−子どもの頃信じていた 迷信が、頭にうかんできた。ばかばかしいと思いながらも、 つい継ぎ目を避けて敷石のまん中を歩きはじめた。(P75)
もし信号が変わる前に銀色の車が通れば、 母さんは死んだりしない……。 ところが、そのとたんに信号は変わり、ゾーイは、 ひどい、といいかけて言葉をのんだ。(P75)
ゾーイはびっくりした。「あなた、死ぬのがこわいの?」 サイモンは肩をすくめた。 「どれだけ長く生きていたっておなじだよ。自分がこの世に 存在しなくなると考えれば、やはりぞっとする。 いくら生きることに疲れていても、未知の世界に行くよりましだ。」(P157)
母さんの笑顔が消えた。「存在しなくなるっていうのが、どうしても わからないのよ。内心はこわくてしょうがないの。」(P209)
悲しいけれども、その悲しみ受け入れることで、 やっと、ゾーイも、サイモンも、解放されていく。 10代からの子どもたち(ティーン)向けの物語だが、 それでも、大人であっても、読後、 シリアスな思いがなかなか離れない。(シィアル)
『銀のキス』著者:アネット・カーティス・クラウス / 訳:柳田利枝 / 出版社:徳間書店
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管理者:お天気猫や
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