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「私は時代を見る目がある」と自信満々に言いきって 長らく停滞していた「和製SF」の古典作品を次々と復活させた 角川のハルキ氏、「本格ミステリ」の古典中の古典まで 往時を知らぬ若者向けにラインナップに引き入れました。 そう、日本三大名探偵中(笑)最大の美形、 ギリシャ彫刻のごとき白晰長身、 東大法医学部助教授にしてピアノの名手、 天才神津恭介ここにあり(昭和30年当時35歳)。
日本の「本格」第一人者といえば名探偵中の名探偵、 人懐こい金田一耕助を産んだ巨匠横溝正史。 本格ミステリ一方の雄、高木彬光もけれん味に溢れた 猟奇的な舞台設定では負けてはいないものの、 文章が平易なので横溝のあの濃密な「雰囲気」には及びません。 かえって修飾的な情景描写を読み慣れた目にはこの古典は あっさりとそれこそドラマの脚本のような淡泊さですが、 そこは論理の一高東大出、ゲームとしては申し分ありません。 悪魔の所業のごとき不可能犯罪、容疑者リストに読者への挑戦、 社会的有力者による「あの有名な探偵さん?」という認知、 「ああっそうだったのか!」という謎ときの驚愕と 合理的解釈に拠る世界秩序の回復、でも演出過剰な名探偵。
これこれこれ! 高度経済成長時代長らく弾圧された後の 爆発的な新本格の覚醒と名探偵時代の復活は、 要するに皆これがもう一度やりたかったんですよねえ。 現在は本格タイプのミステリはエンターテイメントの基礎になって ファンタジーやホラーや伝奇や他の要素を取り込んだり アンチだったりメタだったりもうなにがなんだか判りませんが、 少なくとももう「ただの遊び」をしている暇はない、と切り捨てられる 余裕のない時代に逆行する心配はなくなったようです。
しかし古典の難点は、その後様々なヴァリエーションに使われて すごいトリックでもなんとなく皆が知っているという点でしょうか。 もう、神津先生、なんで犯人の企みに気付かないんだ〜、 などと別の意味で手に汗握っちゃいます。 子供の時父の本をこっそり読んでいたときは 普段冷静なのに熱中するとだんだん狂気じみてくる 神津先生が妙に怖かったんですよ。 今読むと汽車の中でオレンジジュースの瓶にストローさしてる 体力のない助教授、可愛いんですが。(ナルシア)
『人形はなぜ殺される』 著者:高木彬光 / 出版社:ハルキ文庫(角川)
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管理者:お天気猫や
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