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夢の図書館新館

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-- 2001年10月08日(月) --

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『トラフィック』

現代アメリカの麻薬戦争を多面的に描いた映画、 『トラフィック』の脚本が文庫になった。 巻末に若手脚本家ギャガンとソダーバーグ監督の 対談もついていて、それを読むために買う。

映画自体は今年の5月に観た。 脚本がすばらしかったのでぜひ観て欲しいと 信頼のおける知人にすすめられたのがきっかけ。

予告編では、緊迫した場面が小気味よく続くアクション大作 というイメージだった。 実際に映画を観て、売るための予告編とはいえ、まったく ちがう切り口の作品だったのに驚く。

『トラフィック』は第73回の2001年アカデミー賞では 監督賞、助演男優賞(ベニチオ・デル・トロ)、脚色賞、編集賞を 受賞している。

監督のソダーバーグは、『セックスと嘘とビデオテープ』で カンヌ国際映画祭グランプリデビューを飾り、 近作『エリン・ブロコビッチ』が『トラフィック』と ともにアカデミー賞でダブルノミネートされている。

麻薬を供給するメキシコ側、追う側、持ち込まれる側。 3つの場面で画面のトーンを変え、同時進行してラストに収束する アイデアと脚本の秀逸さ。 麻薬戦争の本音を描いた傑作と評価された反面、 同じその脚本が物議をかもしている映画でもある。

脚本を書いたギャガン自身が、麻薬体験に苦しんだという。 麻薬によって社会が崩壊する前に、家族が崩壊してゆくという アメリカの日常描写に役立っているらしい。

私が興味深く感じたのは、麻薬を売りさばくサラサール将軍や 娘が麻薬中毒の全米麻薬対策本部長、 麻薬と闘うメキシコ人の刑事ハビエールや二人組みの刑事など、 ステレオタイプな人物像でありながら、 観客を飽きさせない点。 改めて、小手先の洒脱さよりも、 ステレオタイプ強し、との思いに打たれた。 膨大な資料をもとに、圧縮され、削ぎ落とされたという脚本は、 ギャガンが語るように、確かに断片のすべてが全体を 象徴している。

製作側の裏話では、善人として出てきたハビエール刑事は、 当初の予定では悪人だったという。 若いハビエールが、これから一生善人でいられるのかどうか、 そのあたりの不確実性はあるのだが、もし悪人として 登場したら、彼の魅力は半減しただろう。 なんといっても、多くの人が感情移入してしまうのは ハビエールだろうから。

エンディングに向けて、ひろがる風呂敷のゆくえは。 この戦争に勝つのは誰か?麻薬コネクションの解明は?

映画を観たあと、脚本を読みたくなる人が多いからこそ、 この文庫本が今ここにある。(マーズ)


『トラフィック』 著者:スティーブン・ギャガン / 訳:富永和子 / 出版社:新潮文庫2001

2000年10月08日(日) ☆ どちらの“ライス”?

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