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春のことだった。 『クリスマスに少女は還る』のキャロル・オコンネルの 新作を書棚に見つけた時には、小躍りをしてレジに直行した。 袋から出すのももどかしく、大喜びで読み始めたのだが、 なかなか読み進まずに、気がつくと、8月になっていた。
主人公キャシー・マロリーは、 強烈な個性を持った鮮烈な美女である。 その美しさは、 一度見たら、もう一生忘れられないほどで、 とてもじゃないが、隠密を旨とする 張り込みや尾行には使えたものではない。 しかも、彼女の生い立ちは、 ストリートチルドレンで、 養い親マーコヴィッツ警視に出会ったときには、 その強烈な個性はできあがっていた。 彼女の倫理観、社会観はかなり歪んでいる。 盗みやハッキングなんて問題じゃない。 彼女ほど、警察官には向かない人間もいないだろう。 性格的にも、人間として毀れているから、 常識的なコミュニケーションは難しい。
しかも。 天才的な頭脳の持ち主ときている。 けれど、マーコヴィッツ夫妻の惜しみない愛情で 包み込まれて育った彼女は、 常人には理解しがたい歪みを残しながらも、 彼女なりに、愛に応えようとしている。 所々に描かれる、 彼女とマーコヴィッツ夫妻のエピソードは、 あたたかで、ほろっとさせられる。
けれど、常人の理解を超える存在たるマロリーは、 こちらの感情移入を許さない、 厳しいキャラクターである。 主人公に共感・共鳴しつつ本を読むタイプの私にとっては、 正直言って、 このシリーズが面白いのか、面白くないのか、 よくわからない。
物語は、彼女の育て親であるマーコヴィッツ警視が 殺人事件の捜査中に殺されたことから始まる。 殺人事件は4件の連続殺人事件へと発展していき、 事件を追うマロリーにも魔の手が迫る。
読むのにずいぶんと時間がかかった。 途中長いこと中断したのも、興をそいだのだろう。 なかなか取っつきにくかったが、 意外にも、読み進めば進むほど、加速度がついていった。 あんなに手間取っていたのが嘘のように、 一気にラストまで読み進んでいく。
その理由の一つに、 マロリー以外の魅力的な人物の存在がある。 それが、チャールズ・バトラー。 マロリーの破壊的なキャラもユニークで面白いが、 さらに、魅力的なのは、 愛すべき男、チャールズ・バトラー。 マロリーの友人にして、 まるで嘴のような巨大な鼻を持つ男。 マロリーに心奪われながらも、 自分の容貌故、 友達以上の関係になることは絶対ないと確信する男。 容貌だけでなく、 他にも奇怪な能力−直感記憶−を持つ男。
魅力ある人物の存在が 物語をぐいぐいと読み進めていく原動力となった。 その他にも、 もちろん、マーコヴィッツ警視を殺した 連続殺人の犯人も気に掛かるし、 登場する霊媒やイリュージョンも興味深い。 マロリーと育ての親であるマーコヴィッツ夫妻との 愛情深いあたたかなエピソード。 読むべき点はたくさんある。
それでも、正直に言うと。
原題は『MALLORY'S ORACLE(マロリーの神託)』 読み終わって振り返ってみるに、 原題の指し示すこともわかるようなわからないような。 やはり、なんというか。 どうにも、むずがゆいような読後感なのである。(シィアル)
『氷の天使』 著者:キャロル・オコンネル / 訳:務台夏子 / 出版社:創元推理文庫2001
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管理者:お天気猫や
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