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ドイツの昔話に題材をとった絵本。 リスベート・ツヴェルガーの、 繊細でデフォルメされた絵柄は この変身物語にぴったり。 特に魔女の姿が奇怪で人外なところが一興。 そういえば、昔、NHKの人形アニメでも 放映されていたっけ、と思い出す。
いじわるな魔女の呪いにかけられてしまうから、 おいしくて不思議な香りのスープなんか、 ごちそうになってはいけない。 でないと、7年間も魔女の館にとらわれて働かされたあげく、 鼻の異様に長い、醜い小人に姿を変えられてしまう。 主人公の少年ヤーコプのように。
変わり果てた姿に、両親にも息子だとわかってもらえない。 仕方なく、7年の間リスの姿でおぼえさせられた 料理の腕だけを頼りに身を立て、公爵の料理番になる。 いまだ息子を亡くして嘆いている両親と 同じ町で暮らしながら、である。 これが日本だったら、息子が動物になっていても、なんとなく 気持が通じて家に入れてやったりするのだろう。 でもそれだと、息子は動物のままで一生終わることになりかねない。
やがてヤーコプは、同じく魔法でガチョウにされた魔術師の娘を助け、 協力して呪いを解く。後半は運命と闘うのである。
この物語は、ラングの集めた世界童話全集にも載っていて、 ストーリーはほとんど同じなので、ハウフはこれを元に 書き起こしていると思われる。 ツヴェルガーはイソップやアンデルセンなど 昔話に題材を得た絵本を多く手がけているが、 ラングの名前がこの絵本にないのは、ちょっと残念。
昔話でありながら、主人公の少年の前向きな意志は ハウフ作のほうが意識されているのは解説にもあるとおり。 ラング版とのちがいは主に名前で、
主人公ヤーコプ(ハウフ):ジェム(ラング)
魔法の花ニースミトルスト:スーゼライネ
魔術師ヴェターボック:ウェザーボールド
といったように変化している。 魔女には名前がなく、年取ったいじわるな妖精らしい。 ちなみに、ガチョウになっていた娘の名は、同じくミミ。 そして、ミミとヤーコプ(ジェム)が お互いの魔法が解けて自由になったあと、 どうなったのかに触れていないのも、同じ。 ミミの父親である魔術師は、娘の命を救ってくれた ヤーコプにお礼の贈りものはするのだが… そんなことが気になるのはお節介だろうか? 特にラングのお話では、そういう風に出会った二人は さいごに結婚してめでたしめでたし、が定番なので、 物足りないような、言外のなりゆきに思いを馳せるような。
芸は身を助けるだの、後悔先に立たずだの、 かわいい子には旅させよ、だの、 いろいろなことわざが浮かんでくる絵本である。(マーズ)
『鼻のこびと』 絵:リスベート・ツヴェルガー / 文:ヴィルヘルム・ハウフ / 訳:池内 紀 / 出版社:太平社
※「ながい鼻の小人」(ラング世界童話全集(1)・『みどりいろの童話集』収録 / 出版社:偕成社文庫)
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管理者:お天気猫や
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