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実在の人物の身辺に架空のキャラクターを設定して その人物への憧れを描き出す久世氏お得意の作劇法、 最近評判の作品は芥川と幼女の物語なのだそうですが、 今回文庫になった『謎の母』は太宰治と女学生の交流です。
日本は戦争には敗けましたが、 15歳の女学生、さくらちゃんは元気です。 毎日お寺の長い石段を駆け降りて女学校に行って お友達とお喋りをして道草しながら石段を登って、 お父さんと弟と子犬のご飯の支度をしたり だらしなくて情けない酔いどれ文士の面倒を見たり チェホフを読んだりちょっと退廃的な流行歌を歌ったり。 さくらちゃんってば、おかあさんみたい。 ぐったりと崩折れた無頼派作家を胸に抱き、 自分達二人の不思議な姿をピエタになぞらえる聖母です。
まだ梅雨の明けない雨の日に電車を待ちながらこの本を読んでいて、 気が付いたら私が乗り込んだ電車は目的地の二つ前止まりでした。 う。私もまた恥を増やしているよさくらちゃん。 雨は止んだので線路沿いの濡れた青葉の道をずんずん二駅歩きます。 私の胸にもぱたぱたとセーラー服のスカーフが はためくような気分になります。 太宰ファンはこの本でそこここに嵌め込まれた 太宰作品の反射が楽しめるでしょう。 一方解説の川上さんや私のように太宰があんまり辛い人は、 久世氏のさくらちゃんと一緒に 顔を上げて昂然と歩めば良いのです。(ナルシア)
『謎の母』 著者:久世光彦 / 出版社:新潮文庫
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管理者:お天気猫や
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