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夢の図書館新館

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-- 2001年04月23日(月) --

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『シャルトル公爵シリーズ』

ずいぶん昔、北海道に旅行に行ったとき、名香智子のサイン会を 偶然やっていて、色紙をもらってきた。 私が唯一持っているマンガ家のサインである。

週間少女コミックで連載していた"いにしえの"『美女姫シリーズ』が 初期の代表作とすれば、社交ダンスの世界を描いた『パートナー』(全14巻)は 次の時代の代表作といえるだろう。 このシャルトル公爵シリーズは、一番最近の代表作。 ライフワークともいえるのではないかと思っている。 『純愛はジゴロの愉しみ』から『薄情は薄氷を踏む』までの12巻。 名香智子は、少女マンガ家としての長いキャリアのなかで、 一度は崩れかけた作風を立て直すのに成功した数少ない人である。 自分のフィールドを理解し、 良い意味で自分の絵を取り戻し脱皮していった。 レディースコミックが登場してから、 すっかり身を持ち崩してしまった「過去の名作家」は数多い。

シャルトルシリーズの主人公であるアンリ・ド・シャルトルは 名香智子の超お気に入りキャラ。 見た目はナイーブな美青年、頭脳明晰、大金持ちで実業家、 女性関係はメチャクチャ、性格は悪い。 『美女姫』でも、主人公である双子の美少年貴族ソンモールとカーモールの お仲間として登場している。 実際、設定は変わっているが、大人になったソンモールは シリーズの『エメラルドは気取り屋』で 日本で暮らすアンリの憧れの人(もちろん男どうし)として登場している。

美女姫の頃は、作者がそんなにアンリに入れ込んでいるとは 知らなかったが、シャルトルシリーズの主人公として アンリの半生が描かれているのを見るにつけ、 「ああ、好きなんだなぁ」とうれしくなってくる。

このシリーズを私が面白いと思うのは、 アンリという主人公が、いわゆる主人公タイプではない、ということ。 美女姫のときも脇役だったし、たしか他の作品にも出ていたと思う。 少女マンガ(あえてジャンル分けすれば)の主人公は、 ご存知のように、アンリのタイプではない。 性格は別にしても、描き分け、つまり眼や髪といったパーツが 主人公のカテゴリーからは外れている(評論家みたいになってきた)。 アンリと結婚するレオポルディーネだって、いわゆるヒロインの タイプではない。彼女も絶世の美女で、かつメチャクチャな発想に 読者が共感したりできない、ついていけないタイプである。 アンリの母親ですべての発端であるヴィスタリア (ウィルスにこんな名前があるのだっけ)はこれまたアンリにそっくりで、 彼女もまたヒロインタイプではない。もっとも彼女は変わり者という 設定なので、それが魅力でもあるのだが。

名香智子は、このシリーズで、『パートナー』でも試みた 挑戦をついに完成させたように見える。 パートナーでは、ヒロインとパートナーが 最後は別れるにしてもステレオタイプだった。 しかし、シャルトルシリーズはちがう。 誰と誰がまとまるか、読者が知りたいのはそこなのだが、 いかにも主人公くさいキャラクターたちの ハッピーエンドやアンハッピーエンドに振り向きもせず、 自分の好みのキャラをメインに据えながら、 予定調和を破りまくって、なかには、どんな障害があっても 普通ならこの人とまとまるはず、というヒロインさえ遠ざけ、 少女マンガで育った私などから見ると、ありえないような 結末を与えることに成功したのだ。 もちろん、後からキャラが立って動いたとかいうものではなく、 どうみても最初から「そのつもり」である。

「そんなありふれた過去の設定自体が今ではもう通用しない」と あなたはいわれるだろうか? しかし、彼女ほどこの「反抗」をうまくやってのけた大御所を 私は知らない。(マーズ)


『シャルトル公爵シリーズ』 著者:名香智子 / 出版社:小学館PFコミックス

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