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マキューアンはこれで2作目。 前回の『アムステルダム』のなかに満ちていた ある種の静謐なイメージは負担なく読めたのだが、 今回のは重さが残る内容だった。
導入部の、数十秒のできごとを文学的な永遠へと 引き伸ばす手法は見事なテクニック。 科学ライターというのだろうか、 主人公の仕事自体や彼の挫折も興味深いが、 ストーカー青年が次々と投げかける妄想の前には 足元が崩れていく感覚を共有してしまう。
ある日、事故をきっかけに唐突に陥った、 主人公の男性とストーカー青年の一方的で純粋な関係。 男性と長年同居している女性パートナーの関係も 青年パリーの登場によって安定を欠いてゆく。 なによりも、こわれてゆくのは青年本人では あるのだけれど。 治すことのできない病。
誰かに出会って愛しく想うことと、 その結果の行動が、どこから病気で、どこまでが正常なのか。 もし二人が同時に恋に落ちれば、病気は 発覚しないのではないか。 症状は30年以上も続くことがあるという。 しかも、本人は不幸ですらないのだ。 愛されていると信じ込み、その熱に身を委ね、 拒絶に会うと妄想を手紙に託す。 けれど、そこに書かれた浮いた言葉や夢のほとんどは、 恋をしている誰かが誰に出してもおかしくない。 「殺してやる」と書いた正常な恋人はいないのか?
世の中の恋人たちのなかに、 実際どれくらいの患者がまぎれこんでいるのだろう。 恋は治せないといわれているし、この病もまた。
恋と病気のあいだには、どんなたどたどしい線が 引かれているのか。
そこがこの奇妙な物語の核心ではないのだろうか。(マーズ)
『愛の続き』 著者:イアン・マキューアン / 出版社:新潮クレスト・ブックス
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管理者:お天気猫や
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