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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2000年12月19日(火) --

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☆辞書を引く。

向田邦子さんのエッセイ集は昔っから実家にもあるのですが 本自体の保存状態はどうせ同じくらいだろうと思って ちょっと思い立って古本屋さんの 100円文庫コーナーで買ってきました。 二冊めのエッセイ集「眠る盃」には あちこちの雑誌から依頼された、普段あまり本を 読まないような女性層に向けた随筆も載せられています。 二十年前赤ちゃん雑誌に掲載された「国語辞典」という小文は 辞書というのはとても面白くて、 一生使える本だからお買得です、 辞書を引いている母親の姿は美しいものだし、 子供にとって「教育」になる、という辞書の薦めです。 ワープロの出す漢字のどれが正しいのか確信が持てず 片時も辞書が手放せない今の私達と違って、 当時忙しいお母さん達はいちいち辞書なんか 引かなかったのでしょう。

そして。
次のページをあけたとたん。 なんと、それまで何ひとつ書き込みされていなかった古本に、 いきなり怒涛の書き込みがなされていたのです。 印刷の余白に鉛筆書きで 「夜さり‥夜。晩」とか 「昂揚(こうよう)‥精神や気分が高まる事」とか 辞書で調べた意味が書き出され、 本文中には鉛筆で熟語を丸で囲んで 「潔さ/いさぎよさ」などと振り仮名が振ってあります。 まるで学生時代の外国語テキスト状態。 この本の持主だった方は 最前の向田さんの「辞書を引きましょう」の 文章を読んでさっそく実行したのですね。 丁寧な書き込みは小さな文字なので、 さほど年配の人ではないのでしょう。 「抽斗」は丸で囲ってあるものの振り仮名がありません。 他の読めなかった丸は振り仮名が振ってあるのですから、 これは家族に聞いても分からなかったものでしょう。 「ひきだし」ですよおかあさん、と見も知らぬ 本の持主に向かって呼びかけてしまいました。

しかしこの美しい努力も、わずか3ページで挫折したようで、 次の話にはもう書き込みはされていませんでした。 あとは思い出したようときおり振り仮名が振ってある程度です。

私は本に余分の文字や記号を書き加える事が出来ない質ですが、 この人は、許す。(ナルシア)


『眠る盃』 著者:向田邦子 / 出版社:講談社文庫

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