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先日、所謂「新本格」系ミステリの某人気作家の最新作を読んだ 猫やの相棒が、いかにも解せない、といった調子で 「これって子供向け?」と聞いてきました。 現実的な厚みの無い、 劇画的な作風がいかにも底が浅く感じられたのでしょう。 子供っぽい、楽しめる本の方が世間では主流だし、 本格ミステリはそもそもが単なるゲームとしての読み物なので、 こういった作風はある意味正統派なのですが、 いかんせん文学としてのレベルも高い先人達の作品 を読み慣れた読者を満足させる事は、 余程の技量でない限り至難の技であります。
そこで思い出したのが異色の新本格作家貫井徳郎氏。 彼の抱えるジレンマはこの逆で、 「必殺シリーズ」ファンのこの若いミステリ作家は 本来は大ケレンに満ちた劇画的作品が好きらしいのだけれど、 何故か彼の文章は緻密でリアル、 日常感覚の描写が上手く、人間心理に聡い。 前知識無しで読んだら社会派サスペンスの大家だと思われるかもしれない。 その結果本読みには「これなら下手にトリックなんか弄さ無い方が 余程完成度が高い作品が書けるのに」などと言われてしまう。 ビジュアル世代のミステリファンには「重い」と敬遠されてしまう。
好きな色と似合う色は違う、とはよく言われる戒めですが、 それでも本格の虚構空間に取り組み続けるのは、 矢張り心底好きだからでしょう。 その気持ち、よっく分ります。 と、いう訳で先行き要チェック作家としての貫井氏の技量を 記憶していただくために、 デビュー作にして代表作の『慟哭』をオススメする次第です。(ナルシア)
『慟哭』 著者:貫井徳郎 / 出版社:創元推理文庫
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管理者:お天気猫や
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