さて、求人チェックは毎日やっていたのだが、なかなかこれはというバイトに巡り会わない。 7月末、ノイローゼ生活に飽きてきた時に一つの求人広告を見つけた。 A競艇場の警備員募集だった。 競艇の開催期間に人員整理をする仕事だった。 簡単そうな仕事だと思ったぼくは、早速その会社に連絡を取った。 そして2ヶ月ぶりに面接を受けた。 結果は採用だった。 履歴書を見るなり「来週から来て下さい」と言われた。 「何でこんなに簡単に受かるんだろうか? 前の26回はなんだったんだろう?」とぼくは思った。 とりあえずそこでバイトすることにした。
警備員といっても、周りは年寄りばかりだった。 二三人ほど若い人間がいたが、休憩中にいつも本を読んでいるぼくを見て「あいつ変わっとる」などと陰口をたたいていた。 そいつらとは友達にならなかった。 さて仕事のほうはと言えば、これがまた退屈な仕事で、入場券の自動販売機の前に立って見張りをするだけだった。 これを30分して15分休憩する。一日この繰り返しだった。 最初は、開場前入場ゲート前に並んでいる客の整理をやらされていた。割り込みがないか見張るのである。 「もし割り込みをする人がいたら注意するように」と言われていた。
このバイトを始めて2日目に割り込みを見つけた。 やくざ風の男だった。 『これは注意しないと』とぼくは思い、「割り込まんで下さい!後ろに行って下さい!」と大声をあげて言った。 すると、そのやくざ風は「コラ??、誰に口をききよるんか!」と声を凄んで言った。 「あんたに言いよるんですよぉ。割り込むなっち言いよるでしょうが!」とぼくは応戦した。 「おい、ここでそんなこと言いよったら、命がいくつあっても足らんぞ!」 「わかったけ、後ろに並んで下さい!」
そのやりとりを見ていた上司が血相を変えて止めに入った。 「ここはいい。事務所に戻って」と言った。 納得のいかないぼくは「あんたが注意せえと言うたんでしょうが!」と上司にも食いついた。 顔色を変えているのは、ぼくとやくざ風と上司の3人だけで、それを見ていた多数のお客は笑っていた。 ということでぼくは自動販売機の仕事に回され、客の整理は二度とさせてもらえなかった。
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