ぼくが小学生の頃は平和教育なんてなかったから、学校に行くのは8月1日、11日、21日の登校日だけだった。 まあ登校日と言っても、絶対行かなければならないというものではなかった。 いつもクラス全員が揃っていることはなかったように憶えている。 登校日以外に学校に行ったのは、プールのある日くらいだ。 これは授業ではなく、「プールを開放するから、来て遊んでもいいよ」という日だった。
1年生の時だったと思うが、最初の登校日である8月1日に、先生が黒板に山の画を描いた。 そして、山の中腹の所に印を付けて、 「夏休みを山登りに例えると、今日はこの地点になります」と言った。 11日は、山頂に人が立って万歳している画を描いた。 「今日はここですね」 そう、8月11日は、夏休みのほぼ真ん中になる。
8月11日というと、盆前で気分はウキウキして、残り3週間ゆっくり寝ることが出来て、まだまだ宿題が気にならない、という先生の描いた画のように万歳できる日だった。 だが、そこからお盆まではあっという間で、そのお盆もあっという間に終わってしまう。
お盆が過ぎると、もう夏休みのイベントは何も残ってない。 こちらの海水浴は、クラゲが出るせいで、お盆以降は賑わわない。だから行っても面白くない。 なぜかプールも人が少なくなっているし、そのせいか水が冷たく感じる。
台風も盆過ぎに来ることが多かった。 残り少ない夏休みを、暴風雨が奪ってしまうことに、いつも怒りを感じていたものだ。 それが過ぎると、朝晩が寒く感じるようになり、日も急に短くなったように感じる。
21日の登校日を過ぎると、もう夏休みは10日を切ってしまう。 それまで毎日遊んでいた友だちが、急に外に出なくなる。 みんな宿題に追われているのだ。 唯一の楽しみであるテレビも、夏休み向け番組から、徐々に通常の番組に戻っていく。 「あーあ、夏が終わった」 あの頃は、お盆過ぎが一年で一番寂しい季節だった。
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