嫁ブーが、バルコニーで干してある洗濯物を取り込んでいる時だった。 突然大きな声で「しんちゃん、来て」と言った。 「どうしたんか?」 「あれ見て、あれ」 「どれ?」 「網戸のところ」 言われるままに見てみると、おお、お客さんがいるではないか。 今年最初の珍客だ。
珍客とは、このバッタである。 最初は色が鮮やかだったので、嫁ブーがオモチャか何かを貼り付けていたずらしているのかと思った。 そこでちょっと指で押してみた。 すると動くではないか。
「おい、これ生きとるぞ」 「あたりまえやん」 「てっきり、おまえがいたずらしよるんかと思った」 「いたずらなんかするわけないやん」 「いや、おまえならやりかねん」 「しんちゃんじゃあるまいし」 「しかし、よくマンションの6階まで飛んできたのう」 「うん」 「飛ぶのが専門の蚊とか蝿が飛んでくることが出来んのに、バッタごときがここまで飛べるとは思わん」 「壁伝いに這ってきたんやないと」 「そんなことしたら疲れるやろうが」 「そうやねえ」 「もしかしたら、下の階のバルコニーから順番に飛んできたんかもしれんぞ」 「ああ、なるほど」
その後、パソコンに向かったぼくは、バッタのことをすっかり忘れていた。 2時間くらいたったころ、「そういえば」とバッタのことを思いだした。 「おい、バッタまだおるんか?」 「おるよ」 「そうか」 と、ぼくは先ほど撮った写真の写りが悪かったのを思い出した。 そこで再び携帯を持って、バルコニーに出た。
今度はうまくいったようだ。 あっ、嫁ブーまで写ってしまったわい。 まあいいか。
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