「他に痛いところはありますか?」 「ああ、肩も痛いんです」 「重たい物を持ったせいですか?」 「いえ、去年五十肩になったんですよ。それがまだ完全に治ってないみたいで…」 「五十肩ですかぁ。あれは痛いらしいですねえ…」 「痛いどころじゃないですよ。腕が上がらんとですからねえ」
「で、今は上がるんですか?」 「無理して上げてましたから、上がるのは上がりますよ」 「無理して?」 「ええ。痛くても我慢して腕を上げるようにしないと、固まってしまって上がらんようになると言われたんですよ」 「ああ、それは間違ってます」 「えっ?」 「痛い時は絶対無理したらいけません。痛いのを我慢して無理な運動したら逆効果なんですよ。固まっても、あとで治せばいいんですから、無理をしないことが一番です」 「そうなんですか…」 「ええ、そういう迷信みたいなことを信じたらいけません」
そのあと、低周波治療や温熱治療を行ったあと、もう一度先生の診察を受けた。 先生は、ぼくを仰向けに寝させ、ぼくの右脚を抱えてまっすぐに伸ばしたまま前に曲げた。 次にその脚を曲げて、横に捻った。 今度は左脚で同じことをやった。
しばらくそういうことを繰り返したあと、先生はおもむろに言った。 「痛みの原因がわかりましたよ」 「えっ、何ですか?」 「それは、体が硬いんですよ」 「ああ、それはありますね」 「だからちょっと無理すると、筋や筋肉に影響が出るんですよ」
思い当たる節がある。 元々ぼくは体が硬かった。 それゆえに、運動をやっていた学生時代には、いつも柔軟運動だけは避けていた。 それがまた体を硬くする原因でもあったのだ。 ちょっと激しい運動をすると、体の節々が痛くなり、それがいつまでも尾を引く。 社会に出てからは、柔軟運動以外の運動もしなくなったため、さらに体の硬化が進んだのだろう。 そのあげくが腰痛や背中痛である。
「寝る前に柔軟体操やってください」 「柔軟体操ですか…」 「少しやるだけでも効果がでますよ」 「そうですか…」 「じゃあ、今日から体をほぐしましょう」
ということで、ぼくはストレッチボードなるものに乗せられることになったのだ。 これをやると、ふくらはぎや太ももが張ってかなり痛い。 それに加えて、前屈や横曲げをしろと言うだからたまらない。 『整骨院=楽、気持ちいい』という図式を描いていたぼくにとって、それは苦痛以外の何ものでもなかった。
|