今朝、会社に着いてからのこと。 突然、頭の中である歌が鳴りだした。 その歌とは、ロス・プリモスの『ラブユー東京』である。 別に、出がけのテレビやラジオで聴いたわけではない。 とにかく突然だったのだ。
あまりしつこく鳴るので、ぼくはそれを振り払うかのように、「七色の虹がー、消えてしまったのー♪」と口に出して歌った。 すると横にいたパートさんが、嬉しそうに「シャボーン玉のような、あたしの涙ー♪」とそれに続いた。 それを聞いていた他のパートさんは、「二人とも古いねえ」と笑っていた。
それから1時間が経った。 相変わらずぼくの頭の中では『ラブユー東京』が鳴っていた。 「何でこの歌が鳴るんだろう?」と思ってみたが、答は出てこない。 まあ、そんなことよりも、先ほどのパートさんが、嬉しそうに歌っている姿のほうに関心が行っていた。 「あの人は年上だから当然知っているだろうけど、果たして年下の人たちはこの歌を知っているんだろうか」 そう思ったぼくは、年下の人たちが知っているかどうか試してみることにした。 ところが、今日出勤しているパートさんで、ぼくより年下というと、先ほど「二人とも古いねえ」と笑っていた人ぐらいしかいない。
いや、一人いた。 中リン、22歳である。 さっそく化粧品コーナーに行き、中リンに聞いてみた。 「中リン、『ラブユー東京』知っとうか?」 「何ですか、それ?」 「歌の題名なんやけど、知らんか?」 「知りませんよ」 「そうか」 「どんな歌なんですか?」 「それはねえ…」とぼくが歌おうとした時、ふと横を見ると、そこにイトキョンが立っていた。
「イトキョン、あんた『ラブユー東京』知っとるやろ?」 「『ラブユー東京』…。ああ、ロス・プリモスの?」 「うん」 「それがどうしたと?」 「中リンは知らんらしいよ」 「そりゃそうやろ。あれ、相当古い歌よ」 「うん。おれが小学生の時に流行ったけ、40年ぐらい前の歌」 「そうやろ」 「イトキョンは歌える?」 「えーと、『七色の虹がー♪』やったかねえ」 「そうそう。じゃあ、中リンに教えてやっとって」 「えっ、わたしが?」 「うん。あんたしかおらん。頼むね」 ぼくはそう言って、その場を離れた。
その後も、ぼくの頭の中では『ラブユー東京』が鳴っていた。 そういえば、ぼくが小学生や中学生の頃は、やたらムード歌謡が流行っていたような気がする。 黒沢明とロス・プリモスの他に、鶴岡雅義と東京ロマンチカ、内山田洋とクールファイブ、敏いとうとハッピーエンドブルー、ロス・インディオスなどがいたが、その後どうしているのだろう。 あ、『昭和ブルース』を歌ったザ・ブルーベレ・シンガーズというのもいた。 あの人たちは、今どうしているのだろう? そういう疑問を抱きながら、ぼくは今日を過ごしたのだった。
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