この間の飲み会のことだった。 メンバーの中に、地場ではかなり有名な食品会社に勤めている男がいた。 ぼくは前々からその男にある提案をしたいと思っていた。 そのチャンスが訪れたのだ。 そこでぼくは彼に声をかけてみた。 「おまえんとこ会社で、お菓子作ってみらんか?」 「お菓子?」 「うん。饅頭とか煎餅とか」 「何で?」 「それに『銘菓 月夜待』という名前つけるんよ」 「月夜待ぃ…?あのいなかの月夜待か?」 「そう。あの月夜待よ。“ほろ甘い初恋の味”とか言って売り出したらどうか。CMソング提供してやるけ」 「‥‥」
その男は酔っているのか興味がないのか、話にまったく乗ってこなかった。 それどころか、後ろの席に座っていた女子大生にちょっかいをかけてだした。 それを見てぼくは「ダメだ」と思った。 『まあいいや。この話はよそに持っていこう』 ぼくはその後、その話は一切しなかった。 知らんぞ、『銘菓 月夜待』が大ヒットしても。 後で泣きついてきても、その時はもう遅い!
|