頑張る40代!plus

2006年01月22日(日) バカ高のS(後)

その後もSは、結束機にかけられたりして、みんなのいいオモチャになっていた。
しかし、Sは相変わらずそれを気にしているふうでもなかった。

ある時、年上の大学生にぼくは「Sは、やっぱりバカなんですかねえ」と聞いてみた。
「ああ、あいつやろ。学校でもあんな調子らしいぞ」
「やっぱり。ところで、あいつ下の名前何というんですか?」
「いや、知らん。下の名前に何かあるんか?」
「いや、おれ最近姓名判断に凝っていて、ああいう人間を見ると調べたくなるんですよ」
「そうか」

ということで、ぼくたちは高校生の集まっている場所に行き、「Sの下の名前、何と言うんか?」と聞いてみた。
ところが、返ってきた返事はどれも「知りません」だった。
それなら直接聞いてみようということになり、ぼくたちは離れた場所にボーッと突っ立っているSのところに行った。
他の高校生も興味を持ったのが、ぞろぞろと付いてきた。
「S、おまえ下の名前何と言うんか?」
「はあ、ぼくですかあ?」
「おう、おまえに聞きよるんたい」
「何でですかあ?」
「おまえのことを好きという女がおってのう、名前聞いてくれと頼まれたんよ」
「はあ、そうですかあ」
そういうと、Sはいつものように口をポカンと開けて、例のごとく首をかしげた。
「ホント、おまえは緊張感のない奴やのう」
「えっ、緊張感…?って何ですか?」
「もういい。下の名前、何と言うんか?」
「ぼくですかあ?」
「そう。さっきからそう言いよるやろうが」
「ぼくは…」
「ぼくは?」
「名前は…」
「名前は?」
「輝彦です」
「輝彦ーっ!?」

それまでざわめいていた空間が、一瞬水を打ったようにシーンとなった。
が、その後、大爆笑が起きた。
輝彦と言えば、西郷輝彦、あおい輝彦である。
当時は美男子の代名詞のようなものだった。
その尊い名前を、バカ高の代表選手が付けているものだから、大騒ぎになった。
高校生たちは口々に、「おまえのどこが輝彦なんか」と言って、頭をこづいている。
ぼくといっしょにいた大学生などは、笑いをかみ殺して「おまえ、その名前重たくないか?」と聞いたほどだ。
しかし、S、いや輝彦君は、虚空を見ながら、「重いって何ですかあ?」と言っていた。

その後、ぼくたちがSのことを輝彦と呼ぶようになったのは、言うまでもない。
つまり、「こらS、止めんか!」が、「こら輝彦、止めんか!」となったということだ。
輝彦は、そう言われても、相変わらず口をポカンと開けて、一生懸命荷物を押していたのだった。

あれから30年近くが経つ。
輝彦はぼくより2つ下だから、今年47歳になるのだが、いったいどういう生活をしているのだろうか。
無事に結婚しているのだろうか。
結婚して子供がいたとして、妻や子供たちにいじめられてはないだろうか。
最近妙に気になっている。


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