浪人中にいくつかのアルバイトをやったが、その一つにデパートの配送仕分けの仕事があった。 そのバイト先には、大学生やぼくのような浪人に混じって、高校の実習生も仕事をやっていた。 その高校というのが、その当時地元でバカ校で通っていた学校だった。 まあ、バカ高とはいえ、前の学校を退学になったために、しかたなくその高校に通うようになった人間がいたり、中学卒業後に一度は就職したものの、学問の夢が捨てきれずその高校に通うようになった人間もいたから、バカばかりというわけではなかった。
さて、その実習生の中に、行動といい、風貌といい、そのバカ高を象徴するような男がいた。 Sという。 Sは実によく働く人間だった。 他の奴らがさぼっていても、Sだけは一生懸命自分の仕事をこなしていた。 だが、融通が利かないのだ。 「ローラーの上の荷物を押せ」と言えば、状況を見ずにただひたすらに押すだけで、先端で荷物が落ちてしまっても、こちらが「こらS、止めんか!」と怒鳴るまで押し続けていた。 何度やってもそんな調子なので、一度注意したことがある。 その時Sはポカンと口を開けて、何で注意されているのかわからない様子だった。 ぼくが「頼むけ、前方の状況を確認しながら押してくれ」と言うと、「はあ、わかりました」と言うものの、その直後には、やはり前方を確認せずに押し続けるのだった。 こうなれば、こちらが気を利かして、荷物が落ちる前に「ストップ」と言うしかなかった。 ただでさえ神経を使う仕事だったのに、そのおかげでさらに疲れは増した。
ある時のことだった。 休憩時間が終わって仕事を始めようとすると、今度はなかなか荷物が回ってこない。 見てみると、Sは体中にガムテープを巻き付けられていた。 ぼくは慌ててSのところに行って、「どうしたんか?」と聞くと、Sはヘラヘラ笑いながら「みんなから巻き付けられました」と言った。 「おまえ、みんなからいじめられよるんか?」と聞くと、Sは口をポカンと開けたままで首をかしげ「いじめ…?いや、いじめられてないっすよ」と言う。 「もういい」とぼくは言って、おそらくガムテープを貼り付けただろう人間たちに向かって「おい、ガムテープ剥いでやれ。そうせんと、いつまでたっても帰れんぞ」と言って、テープを剥がさせた。 Sはみんなから頭をこづかれながら、テープを剥がされていた。 その間もSはヘラヘラ笑っていたのだった。
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