一昨日の昼頃から急に寒くなってきた。 予期せぬことだったので、ぼくはてっきり風邪を引いたのかと思い、慌てて買い置きしている葛根湯を飲んだ。 寒気がした時に葛根湯を飲むと、体の芯が温まり、寒気が引いていくのが常である。 ところが、一昨日はいつまでたってもそうならない。 「もしかしたら、本格的に風邪を引いたのかもしれん」 そう考えると、何だか気分も冴えなくなってきた。
そういえば、タバコがうまくない。 味がないのだ。 ただの煙がのどを通っているような感じがする。 そのせいで、咳込んでしまった。 何でもない時でも咳込むことはあるのだが、こういう気分の時だから、これも風邪の仕業だと思ってしまう。
そうこうしているうちに、それまで何ともなかったのどまでが、痛く感じてきた。 そこでのど飴をなめたのだが、爽快感を感じない。 そのうち鼻がムズムズしだし、くしゃみまで出てきた。 「いよいよ本格的な症状が現れてきたわい」 ああ、気が重い。
先月に続いて今季二度目の風邪になる。 ぼくはこれまで、一シーズンに一度しか風邪を引いたことがないから、けっこうショックが大きい。 先月は咳が止まらずにかなりきつい思いをした。 その思いをまた経験しなければならないのだ。 ようやく声が元に戻り、歌が普通に歌えるようになったのに、これでまたプレイヤーズ王国用の歌の録音はお預けである。 すでに選曲も決め、ずっと練習してきたのに、これがまた先送りになってしまう。
そんなことを考えている時だった。 パートさんがぼくに「急に冷え込んできたね」と言った。 「しんちゃん、あんた薄着やけど寒くないと?」 「…ああ、寒いよ」 「そうやろね。こんなに厚着しているわたしが寒いんやけね。どうせズボン下なんかも履いてないんやろ」 「履くわけないやん」 「意地張らんで、ちゃんと防寒しとかな、風邪引くよ」
寒気ではなく、実際に寒かったのだ。 その会話のおかげで、ぼくの気は軽くなった。 すると、それまで味がわからなくなっていたタバコも、ちゃんと味わえるようになったし、痛いと思っていたのども、痛くなくなった。 現金なものである。
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