(1)ナミちゃん うちの店のアルバイトに、ナミちゃんという女子高生がいる。 華奢な体つきで、背が低く、全体に小振りである。 マンガ『YAWARA!』に出てくるキョンキョンに似ていると言ったら、おわかりいただけるだろうか。 その上、声がか細く、性格も大人しいときているから、存在感というものを感じない。 帰る時に、「お疲れ様でした」というか細い声を聞いて、初めて『ああ、今日は出勤していたのか』と気づくことがよくある。
(2)あいさつ ナミちゃんのあいさつには、特徴がある。 ぼくが「こんにちは」と言うと、必ず「あっ、こんにちはー」と言う。 なぜか「あっ」が入るのだ。 それに気づいてから、ぼくも「あっ、こんにちはー」と言うことにした。
(3)「ヨイショ」 ナミちゃんは、一つの動作をする時に、いつも小さな声で、ゆっくりと「ヨイショ」と言っている。 その際、小さい体を意識しているのか、動作を大きくしている。 その動作もゆっくりである。
(4)サンダル ナミちゃんは、会社まで歩いてきている。 いつも体に似合わない大きなサンダルを履き、カタカタ言わせて歩いているのを見かける。 その姿を見ると、子供が親のサンダルを履いておつかいしているような気がしてならない。
(5)流行 ある時、口を開けて立っているナミちゃんを見つけた。 そこで、ぼくは声をかけた。 「あっ、こんにちはー」 「あっ、こんにちはー」 「ナミちゃん、あんたキレとるやろ?」 どう反応するのかと見ていると、ナミちゃんはおもむろに右手の人差し指を立てて、小力の口調でこう言った。 「キレてないですよ」 控えめなナミちゃんも、流行には敏感なようである。
(6)流行音痴 ナミちゃんの部署には、何人かのパートさんがいる。 そのパートさんの一人に、そのことを言ってみた。 するとそのパートさんは言った。 「キレてない…? 何それ?」 「えーっ、知らんと?」 「えーっ?」 「遅れとるねえ」 「ひげ剃り?」 「‥‥」
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