小さい頃から男手がなかったため、うちには男のアイテムというものが圧倒的に少なかった。 そのため、ぼくが成長してから買い揃えたものが数多くある。 例えば大工道具であったり、例えば釣り道具であったり、例えば喫煙道具であったり、である。 シェーバーもその一つだ。
ぼくがシェーバーというものを、初めて身近に使っているのを見たのは、高校1年の頃である。 夏休みに、横須賀の叔父のところに遊びに行った時だった。 朝方、「ジージー」という音がしたので、何だろうと起きてみると、叔父が頬を膨らましてシェーバーでひげを剃っていた。 その姿にぼくは男を感じた。
そこで、叔父が出かけた後、自分のあごにそれを当ててみた。 すると、ほとんど産毛に近かったぼくのヒゲはきれいに剃られた。 しかし、そのあとの違和感といったらなかった。 ジンジンと痺れるような感覚だったのだ。 それが半日近く続いたように覚えている。
その後、ぼくもシェーバーのお世話になるようになるのだが、それがいつだったのか、はっきりと覚えていない。 高校時代とか、予備校時代ではなかったと思う。 家にシェーバーがあった記憶がないからだ。 ということは、それ以降、おそらくは20歳以降、東京時代の頃ではなかっただろうか。
その頃、ヒゲはすでに剛毛化していたが、伸ばした記憶はない。 ということは、剃っていたのだ。 手剃りをやったのは後のことだから、おそらくはシェーバーを使っていたのだと思う。 しかし、どういうシェーバーを使っていたのかは覚えていない。
社会に出てしばらくは、手剃りでやっていた。 シェーバーだと深剃りが出来ないと聞いたからだ。 とはいえ、手剃りは何年やってもうまくならなかった。 いつも切り傷を作って会社に行っていたものだ。 確かにT字のカミソリは安上がりだった。 だが、剃ったあと必ずアフターシェーブローションを付けないとかぶれてしまう。 それがだんだん面倒になってきた。
そういう時に、ナショナルの手剃り感覚で剃れるシェーバーが発売になった。 そのシェーバーは、手剃りと同じようにシェービングフォームや石けんなどを使用しても剃ることの出来るタイプだった。 そのため、清潔であることは言うまでもない。 しかもシェーバーだから、肌を切る心配もないし、何よりも面倒なアフターシェーブローションをつける必要がなかった。 ぼくはさっそくそれを買い求めたのだった。
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