朝、店長が店の軽トラックの荷台に、三つの段ボール箱を載せてきた。 ぼくが「何ですか、これ?」と聞くと、店長は「屋上の駐車場に捨ててあったんよ」と言った。 「捨ててあったんですか?」 「うん。ほら、昨日の雨でずぶ濡れになっとるやろ」 「ああ」 「中に鞄が入っとるみたいなんよね」 「鞄?」 「うん。ちょっと待って、開けてみるけ」 そう言って、店長はずぶ濡れになった段ボール箱をびりびりに破いた。
なるほど中には鞄が入っていた。 店長はそれを見て、「いいねえ、この鞄。捨てとるならもらおうか」と言った。 「ちょっと待ってください。そこに封筒のようなものが付いていますよ」 「ああ、これね」 そう言って、店長は封筒を破った。 中には、『○○様』と書いた納品書が入っていた。 ぼくが「それ捨てたんじゃないで、落としたんじゃないんですかねえ」と言うと、店長は「いや駐車する場所じゃないところに、重ねて置いてあったもんねえ」と言う。 ぼくが破れた段ボールを見てみると、そこには荷札が貼ってあり、『11月1日(土)着)と書いてあった。 「おかしいですよ、これ。今月の1日は何曜日だったですかねえ?」 「1日は確か火曜日だったと思うけど」 「やっぱりおかしい」 「何で?」 「これ見て下さい。11月1日(土)となってるでしょ」 「ああ、そうやねえ。1日が土曜日ということは、2年前か。なるほどおかしいねえ」 「中に何か入ってるんじゃないんですか?」 「見てみようか」 そう言って、店長は鞄を開けた。
中に入っていたのは、『ナポレオン・ヒルの成功哲学』と書いたビデオテープやCDがたくさん入っていた。 「やっぱり、これおかしいですよ」 「しんちゃん、ナポレオン・ヒルちゃ何かね?」 「ちょっと前に流行った自己啓発みたいなのですよ」 「ふーん。よく知っとるねえ」 「新聞とかに載っとったやないですか」 「そうやったかねえ」 「これ全部で、おそらく100万円以上しますよ」 「えーっ、そんなんすると?」 「ええ、確かビデオテープ1本数万円するはずですから」 「何でそんな高価なものを捨てるんかねえ?」 「さあ?」 その金額を聞いて恐れたのか、店長は慌てて「警察に届けてくる」と言って、軽トラックを運転して行った。
その後店に帰ってきた店長は、「警察からも、『100万円以上しますよ』と言われたよ」と言っていた。 いくらお金ではないとはいえ、普通100万円の価値のあるものをどうして捨てるだろうか。 おそらくこれを捨てた(?)人は、ナポレオン・ヒル物の代理店をやっている人なのだと思う。 何かの理由で捨てたのだと思うが、納品書の封が開いてなかったのだから、きっと仕入先には代金を払ってないのだろう。 しかし、何で2年前に送ってきた品物を、今頃捨てるのだろうか? それもわざわざうちの店に来て。 いらないのなら、焼却するなり何なりすればいいのだ。 いらんこと捨てたりするから、警察に行かなくてはならなくなったのだ。
ところで、持ち主が現れた場合、謝礼はどうなるのだろうか? お金でくれるのだろうか? それともその商品をくれるのだろうか? それでもいいなあ。 ぼくは、それを一度見てみたかったのだから。 あっ、いかん。 いらんこと捨てたりするから、謝礼を期待してしまうじゃないか。
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