2005年10月03日(月) |
続・29年前の日記を読んで |
秋の夜長、遅くまで起きていた。 せっかく夜更かししたんだから、いっちょう金縛りにでもあってやれと思いながら、布団に入る。 目を瞑って、ゆっくりと深呼吸をして、ラジオを消して…。 だけど、金縛りになんか、そうそうあうものではない。 思考が邪魔するのだ。 「あの頃はこうだった」「あっ、ああいうことがあった」と、昔のことばかり考えている。 耳が痒く、鼻の痛みは増すばかりだ。 もしかしたら、ぼくはもう終っているのかもしれない。 少しは狂ってもいるのだろう。 昨日の続きである。 そう、今日も29年前の日記を読んでいるのだ。 これは、11月8日の日記である。 この頃から、「金縛りにあおう」なんてバカなことを、ぼくはやっていたのだ。 もしかしたら、金縛りにあうことに喜びを感じていたのかもしれない。 となれば、変態である。
ところで、文中に『鼻の痛みは増すばかりだ』と書いているが、何のことかわからないと思うので、ちょっと説明しておく。
その年(1976年)の秋、変なことに気がついた。 鼻の脂肪のことである。 それまでぼくは、鼻を押さえたら脂肪が出てくるなんて、まったく知らなかったのだ。 10月のある日のこと、何気なく鼻を触っていたら、ニョキニョキと何か白いものが無数に出てくるのに気がついた。 「えーと、これは何?」 それを見た時、ぼくはそれが何なのか、さっぱりわからなかったのだ。 ただ、それを見て思っていたことがある。 「これは虫だ!」 ニョキニョキと出てくるから、てっきり生き物だと思ったわけだ。 ということで気味が悪くなり、その日からぼくは、鼻の虫(脂肪)の退治を始めたのだった。
そんなある日のこと、大きな固まりが顔を見せた。 それを見てぼくは、「これが親だ」と思った。 「こいつを退治すれば、他の虫も自ずといなくなるだろう」 そこでぼくは、爪を立てて、その親を無理矢理絞り出した。 すごく大きく、長い虫(脂肪)だった。 そんな大きなのを見たことがなかったので、感心しながら、それを見ていた。 ところが、その脂肪が取れた跡から血が流れてきたのだ。 そこで、いちおうは患部を洗っておいたのだが、そこを消毒したり薬を塗ったりすることもなく、そのまま放っておいた。
その翌日のことだった。 朝起きると、鼻が真っ赤に腫れ上がっていたのだ。 おそらく穴の中に、ばい菌が入ってきたのだろう。 それを見てぼくは、初めてことの重大さに気づいた。 そこで慌ててオロナインを塗ったのだが、すべては後の祭である。 腫れが引くまでに3週間、鼻の赤みが取れるまでに3ヶ月もかかってしまった。
その間も、休むことなく予備校には通っていたのだが、痛いし、鼻が目に触れるしで、とても勉強どころではなかった。 まだその腫れが引いてなかったことのことだったが、卒業証明書を取るために、高校に行かなければならないことがあった。 「これは困った。知った先生とか後輩に会うと面倒やの」 そこでぼくは帽子を深くかぶって、学校に行った。
ところがである。 ぼくが学校の事務所の前に立っていた時、運悪くそこに1年の時の担任がやってきたのだ。 「おう、しんたやないか」。 「あっ、こんにちは」 「何しに来たんか?」 「卒業証明書がいるようになったんで、もらいに来たんです」 「おまえ今、予備校やったかのう」 「はい」 「そうか。ん?おまえその鼻どうしたんか?」 「‥‥。いじっていたらこうなったんです」 「アホかおまえは。むやみに鼻なんかいじったらだめやろうが」 「‥‥」 「病院行ったほうがいいぞ」 「えっ、そんなに悪いんですか?」 「放っておいたら、一生その鼻は治らんぞ」 「えーっ?」 こんな赤く腫れ上がった鼻で、一生過ごすなんてまっぴらである。 とはいえ、病院に行く気はさらさらない。 そこで、家に帰って、まるでドーランのごとくに、オロナインを塗りたくった。 それがよかったのか、それから何日かたって、ようやく腫れは引いた。 少しホッとしたものだった。
あれ以来、ぼくは鼻を触ることはなくなった。 それに懲りず、そんなことを続けていたとしたら、それこそぼくは終わっていただろう。
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