ぼくは鼻の中にできものなどが出来たり、鼻炎であったりすることが多い。 歯医者の治療中も、よく鼻水がのどに落ちてきて困っている。 そう、ぼくの鼻は健康ではないのだ。 ところがである。 鼻は健康でないくせに、人一倍『におい』に敏感なのである。
例えば、香水をつけた女性が横を通ったとしよう。 においに敏感であるから、当然その『におい』は必要以上にぼくを責めつける。 ひどい時は頭が痛くなることもある。 それだけならいい。 香水の『におい』の中に、かすかにトイレの臭いを忍ばせてくる人もいる。 本人は香水をつけているから大丈夫だと思っているかもしれないが、ぼくの鼻はごまかせない。
そういえば、かつてぼくを動物に喩えると「オオカミだ」と言った人がいるが、嗅覚の鋭さでいえば、それは当たっているだろう。 まあ、その人は一匹狼的な意味で、そう喩えたのだと思うが。
さて、今日、その『におい』で困ったことがあった。 洗濯物はいつも乾燥機にかけ、そのあとで外に干している。 その後十分に乾いたのを確認して、衣装ケースに入れる。 ところが、ここ最近の雨で外に干せない。 そこで、室内に干していた。 どうもそれがいけなかったようだ。
今日着たTシャツに、かすかではあるが重苦しいにおいがついていたのだ。 最初は洗剤のにおいかと思った。 だけど、何か違う。 そこで嫁ブーに、「おい、これ臭うてみ」と言って臭わせてみた。 「何も臭わんよ」 「おまえ、この臭いがわからんのか?」 「洗剤のにおいやろ」 ああそうだった、嫁ブーは、動物に喩えると鳥だったのだ。 だからこの微妙な臭いがわからない。
そこで他のTシャツに着替えようと思って探してみたが、どのTシャツも同じ日に洗濯したものなのである。 ということは、きっと同じ臭いがするだろう。 そう思ったぼくは、しかたなくそのTシャツを着ていくことにした。 そこには、「風を通せば、ほどなく消えるだろう」という楽観的な思いもあった。 ということで、通勤中の車の中では、エアコンを全開し、Tシャツめがけて送風していた。 おかげで、会社に着く頃には、その臭いもなくなったようだ。 臭いが消えたことで、ぼくは臭いのことを忘れた。
ところが、仕事が始まってしばらくすると、制服の隙間から、時折朝方の臭いが漏れてくるようになった。 「えっ?さっき臭いは消えたのに、どうしてまた‥‥」 しばらく考えて、はたと気づいた。 会社ではTシャツの上から制服を着る。 そのため、風通しが悪くなる。 そうなると汗をかく。 汗が再び臭いを呼ぶ。 そう、臭いが消えたことに安心して、こんな簡単なことを忘れていたのだ。
ただでさえ嗅覚の鋭いぼくである。 一度臭うともうだめで、だんだんこの臭いに耐えられなくなってきた。 そこで、ぼくは店で売っているTシャツを買い、それに着替えることにした。
その臭いがどんなものだったのかというと、納豆の臭いである。 つまり、ぼくが出がけに感じたかすかな臭いの正体は、実は納豆菌だったというわけだ。
明日はぼくも嫁ブーも休みである。 ということで、洗濯をやり直そうと思っている。
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