2005年06月25日(土) |
ヒロミちゃんがやってきた(その2) |
ぼくは車にヒロミを乗せると、さっそく嫁ブーの会社へと向かった。 一般道を通って行くことも考えたが、ヒロミ宅に到着したのが大幅に遅れたため、都市高速を利用することにした。
ところで、ぼくは、ヒロミを車に乗せるのは初めてである。 ヒロミ宅に行く途中で、『いくら10数年前に同じ職場で馬鹿をやっていた仲とはいえ、こういう隔離された場所で二人っきりになったら、お互いに躊躇して言葉も弾まないんじゃないか』などと心配していた。 が、そういう心配はまったく無用で、ぼくたちは相変わらず、普通に馬鹿やっているのだった。 それにしても、車の中のヒロミは、よくしゃべる。 いっしょに働いていた頃の話題から、町内会の話題まで、次から次に出てくるのだ。
さて、そのヒロミの一連の話に嫁ブーのことが出てきた。 前にも言ったが、ヒロミは嫁ブーのことを『ボリ』と呼んでいる。 「前に沖縄におったボリのお姉さんに、そーとー(かなり)良くしてもらったけね」 「そうか」 「そういえば、ボリのお兄さんの子がおったやろ?」 「おう」 「どうしよると?」 「去年、自衛隊に入ったぞ」 「ふーん。ねえ、ボリは二人兄弟よねえ?」 「えっ…?」
たった今、お姉さんとお兄さんの話が出てきたばかりである。 それだけでも三人兄弟じゃないか。 「違う。六人兄弟」 「えっ、6人もおると?」 「おう。男3人と女3人たい」 ヒロミは嫁ブーと高校から就職までずっといっしょで、実家に何度も遊びに行っているくせに、今さら何を言っているのだろう。 しかし、それこそが『愉快な隣人ヒロミ』のヒロミたる由縁である。
そういえば、その時に思い出したことがある。 先月ヒロミの家に行った時のことだが、ヒロミが嫁ブーに娘のビデオをダビングしてくれと頼んでいた。 嫁ブーが「じゃあ、テープ貸して」と言うと、ヒロミは「今ここにないけ、後で送るね」と言い、嫁ブーに住所を聞いていた。 今月に入って、ようやくそのテープが送られてきたのだが、その封筒を見て、ぼくたち夫婦は目が点になった。 住所は嫁ブーが教えたとおり、正しく書かれていた。 問題は宛名にあった。 苗字はちゃんと結婚後のものになっていた。 が、名前が違うのだ。 嫁ブーは『由紀』という名前なのに、宛名は『由記』となっていた。 それだけなら、「きっと字を間違ったんだろう」で片付けただろうが、ヒロミはそれで終わらないのだ。 なんと、その『由記』の下に、ご丁寧にも『子』を付けていたのだ。 つまり、宛名が『しろげ由記子』になっていたのだ。
「おい、おまえは高校まで『由記子』という名前やったんか?」 「違うよぅ」 「ということは、おまえとヒロミは、友だちじゃなかったんか?」 「友だちやったよ」 「じゃあ、何で友だちの名前を間違えるんか?」 「それは…。ああ、あの人、私のこと『ボリ』としか呼んだことがないけ、きっと下の名前まで知らんかったんやろう」 いや、きっとヒロミは、嫁ブーの旧姓も知らないだろう。 苗字はぼくと同じだから、ちゃんと書けたのだと思う。
嫁ブーが言うことにも一理ある。 ぼくも、昔から、ヒロミが嫁ブーのことを呼ぶ時は、「ボリ」以外の名前で呼んでいることを聞いたことがない。 だが、いくらニックネームで呼び慣れているとはいえ、普通の人なら名前もちゃんと覚えているだろう。 いったい、ヒロミは嫁ブーのことを、どうインプットしているのだろうか。 まあ、このへんが、いかにもヒロミらしいと言える。
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